ベストSFイヤー 石飛卓美

 

 どの年がぼくにとってのSFがいちばんだったかを選べという。優柔不断な男にとって大変に難しい問題だ。すべての作品に目を通しているわけでもなく(おそらくそれほど読んでいないに違いない)、読書傾向に偏りがあるのも確かだし、手元に年次別に作品を列挙した資料もないときている。海外作品などさっぱりつかめない。

 さてどうしたものか?

 感覚的な年代では60年代がベストだと思うが、どの年かを指定することは困難だ。玉石混淆の中から玉を捜しだす能力はぼくに欠けているひとつである。だいたい、美女をずらっと並べて、最高に輝いているのは誰かと問われているようなもので、とても答えられない。

 ぼくにとってひとつひとつの作品が「つきあった女性」ということになる。その限りにおいては、個々の評価は心の中だけにある。ひとつひとつの査定を公表するのははばかられるのだ。いい女ばっかしと寝た年なんてないように思う。

 ようするに作品を基本に選ぶ必要はないのだ。

 前置はさておいて、苦しまぎれにぼくが選んだのは1979年と80年である。

 このふたつの年はひとつの流れを形成しているので切り離せない。

 現在、SF界で活躍している若手作家の多くがこのふたつの年にデビューまたは商業誌の片隅に名を残しているのだ(78年も多かったが、予兆の年であったということで割愛させて頂いた)。

 SFマガジン、奇想天外の両誌でコンテストが行なわれている。マガジンでは豊田有恒氏の選評によるリーダーズ・ストーリイがあった。予選を通過したたくさんの作家候補生の名前がある。

 それらから輩出した作家をざっとあげてみよう。もちろんその年にデビューした人もいれば、何年か後に世にでた人もいる。

(順不同なのであしからず。Mはマガジンコンテスト。Kは奇想天外コンテスト。Rはリーダーズ・ストーリイ)

 その中に石飛卓美 M、R もいちおう入っている。

 どうだ。すごいメンバーだろう。

(落とした人がいたらごめんなさい。筆名が変わっていたら判らないんです)

 これだけの人が、79年から80年にかけて作品を発表またはその後のデビューにつながる作品を書いたことになる。

 これは長いSF史の中で希有なことではないだろうか?

 要因として上げられるのは、79年にマガジンのコンテストが再開されたことである。それまでたまっていた若いエネルギーが一気に爆発したとも思える。その後、ポツポツとしか新人が現われなかったことを思えば、頭抜けた年であったといえる。

 ちょうど70年代から80年代へ切り替わる年であったのも何かの因縁だろうか?

 今年は89年。90年代へ突入する今年から来年へかけて、すごい新人たちがぞくぞく現われることを期待したい。

 本当のベストはこれからなのだ。

 2年ほど前からなくなってしまったが、京都には15年つづいた「星群祭」があった。夏の蒸暑いさなか、セミナー形式でパネルや合宿などがあって、けっこうおもしろいコンベンションだった。石飛さんとは、そのときに会ったはずだ。はずだ、というのは、名前を知る前から、顔だけは憶えていたからである。町会議員だとか(そののち落選)農業をやっているとか、星群のなかでは変わった人という印象がある。酒好きでコンベンションが好きである。

 星群出身作家というと、石飛さんのほかに、児島冬樹、松本富夫、菅浩江、井上祐美子(春ごろデビュー)らがいる。今をときめく『ロードス島戦記』水野良や、山本弘も星群出身には違いない。数が出ればいいというわけではないけれど、SF界への貢献度などは、将来だれかが決めることである。

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