マイSFベストイヤー

村上純平

 たぶん同じ様な書き出しで始める人が他にもいるんじゃないかなと思うけど、かつて、“Before The Golden Age” というアンソロジーがあちらで話題になっていた時、SFの黄金時代はいつかというのが、盛んに論じられていた。曰く、一般的にはキャンベル時代だというのが定説になっているけど、人によって20年代(トゥエンティ)だの、30年代(サーティ)だの、あげくにスタージョンだっけが今だ(その当時)のと言っていたものだけど(今考えればそうかもしれない!)その当時の決定版というかテリィ・カー(だっけ)が皮肉もこめて言いだしたのが“SFの黄金時代は12才(トゥエルヴ)だ”って奴。これは人によって多少の前後はあれ、多かれ少なかれ、思い当るフシがあるんじゃないかと思う。大体、12才位で最初、もしくは、意識した所でのSF原体験を行なっているというのが、一般的(SF界では)じゃないかなと思う。だから、僕のベストイヤーは12才です、っていうわけじゃない。もちろん、これもそのひとつかも知れないけど、これに加えて、僕は17・8才、あるいは受験期っていうのを付け加えたい。

 この意見にもいくらかの人が賛同してもらえるんじゃないかと思う。あれ何故だかわからないんだけど、学生の頃、試験とかが近づくと、なんかやたら本とかが読みたくなってついつい、いかんと思いながら、気がつくと読み切ってしまっていたり、試験勉強をやっているレポート用紙に途中から、書評を書いていたりする、あの感覚。ある種のハングリー状態とでもいうのでしょうか、たぶんわかってもらえると思うけど、あれの事。最近の学生サンはどうか知らないけど、僕がそうだった頃、てれぽーと欄にも同じ様な意見がちょこちょこ出ていた様な気がする。

 ただ、僕の場合、その受験期ってのが、1976・7・8年と続いたものだし、その頃時代背景がちょっと特殊だったのが、今になっているんじゃないかと思う。というのもその頃は、ハヤカワSFシリーズが絶版になって、巷の本屋から消え始め、1回出たっきりの新SF全集の広告を何度もくり返してはながめ、とーとつに出た青背の『プレイヤーピアノ』にぶっ飛び、唯一SFMの海外短篇だけがけっこう充実していて(「ク・メルのバラード」と「スズタル艦長の──」が連続登場したのもこの頃だった)ひたすら、読み漁っていた時代で、SF出版界自体が一種のエアポケット状態で、あのスターウォーズがらみのクソミソ一緒の怒涛のような状況になる直前で、特にハングリーな時期だったのかもしれない。参考書を買うと言っては親から金をチョロまかして神戸から元町・三宮までの古本屋を巡礼してまわった(浪人の時はほとんど毎日!)のもこの頃だし、元町の丸善に飽足らずに、旭屋まで足を延ばし始めた(今は亡き駅前店が意外に穴場だった)のもこの頃だ。

 その頃にあの“オービット”や“現代SF全集”なんて、手に入れていなければ、こんな駄文をこんな所に書いていなかったと思うけど……まあいいか。

 ところでこの原稿を書くために自宅に帰って昔のファンジン(今住んでいるところにはほとんど本が置けないのです)を引っ繰り返して見ていると、まあ、あるはあるは、傑作が。今読むと皆若かったせいか、「オービット」なんてホント、ストレート。さすが座談会にまで発展しただけの事はあります。あれ位はっきりしていると読んでいても気持がいい。それと、異様な熱気。このふたつは、あの頃に共通した感覚だ。水鏡子氏の「エリスン=ブラッドベリ説」が現代SF全集の月報に書かれていた事(考えりゃ当り前か)や、例のSFM考課表の採点者と点数をみていると思わず顔を浮かべて笑ってしまうのです。そういえば大原まり子女史というのもあったし。

 てな事ですが、この手のものを書くと、どうしても“昔はよかった”になってしまうんだけど、まあ、たまにはいいんではないでしょうか。といいながら、最近の自分自身のライフスタイルを見返すと、ノスタルジーにどっぷりひたりつつある所にアブなさを感じている今日、この頃なのであります。

村上純平は、同志社大学SF研をへて、現在事務器メーカの営業職。深夜におよぶサラリーマン生活を送っている。かつてワールドコンに参加したし、翻訳もした。現在でも、京都フェスぐらいは参加している。生活はSFと無縁だが、かといってファン活動を捨てたわけではない。そういう境界にいる、30代SFファンにとって、この文章こそが実感なのである。

「オービット」(1975〜78)は安田均さんが創刊。海外SFの翻訳やビブリオ、SFマガジン考課表などの書評欄が売り物だった。現在ある同系統ファンジンの原型である。やがて、水鏡子が編集を担当するが、内容が問題となり、横田順彌らとの論戦にまで発展した(奇想天外1979年2月号座談会)。

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