巨人たちの星
ジェームズ・P・ホーガン(東京創元社1983/5刊)


SFアドベンチャー
(1983年8月)

巨人たちの星(東京創元社)
(創元推理文庫版カバー)

 4、5日遅れで買ってみると、もう2刷になっていた。売れているんですねえ、と今さらながら感心したりして。

 ホーガンの時代なのである。世界的に評価が高いわけでもないし、我国特有の現象なのだけれど、ともかく人気が上っている。先号に引き続いて、2回連続でホーガンを取り上げるわけは、絶賛の初紹介作『星を継ぐもの』3部作が、完結したからである。本書は、太陽系2500万年の歴史と、人類誕生5万年の秘密がついに解き明かされ(書いていて呆れます)、時問の輪が閉じられるという、大団円の内容。最近科学づいているせいか、“びいさいえんす”と帯にある。出版社の宣伝では、テクノSFの目玉商品。ただ、石原藤夫さんのように、ホーガンの科学性に疑問を投げかける人もいる。事実“ハードSF”といえるほどの正確さはないようだ。しかし、エンタティンメントと注釈を付け、愛読書に挙げる科学者は結構いる。一般の読み手にとってみれば、科学的正確さは二の次で、大して問題にならない。テクニカル・タームを適度にちりぱめ、現代SFの緻密さ(裏返せば、読みにくさ)を排した構成は、ポピュラーサイエンスの時代にウケル要素を持っている。なんといっても、2年連続星雲賞受賞(来日の噂もあるから、うっかりすると3年連続)。やさしく読めて、サィエンスっぽく、スケール雄大とくれば、今の日本の情況にズバリ適合するのだろう。どっちかというと、ゲテもの臭かったんだけど、(今にして、だが)ヒットする要因はあった。出版社の人、エライ!

 『星を継ぐもの』は、月で発見されたルナリアンの秘密にはじまり、火星と木星の間にあった古代の惑量ミネルヴァ、そして、ガニメデでの2500万年前の遭難宇宙船発見と、太古の謎の追求が描かれていた。第2部『ガニメデの優しい巨人』は、ある日2500万年の時を越えて(相対論釣に)帰還した、ガニメアンたちの宇宙船と乗組員の物語。本書になると、ガニメアンたちの子孫テューリアンが、密かに地球へと通信を送り、そのメッセージに従って、数人の地球人たちがテューリアンの世界を訪れる。だが、そこで別の人類、ジュヴレン人の存在を知る。実は彼らは…、という内容。

 アシモフの3段階発展説じやないけれど、この3部作も、主眼とするアィデアが次々に進化していって、単純明快な五○年代SFが、異星人との接触に伴う社会学になり、最後の政治的駆け引きめいたものにまで変わってしまった。実は、そういうところが、ちょっと問題なんですね。本来“人類5万年の秘密”とか、そういうスケールで進んでこそ、ホーガンの良さと新鮮さがあったわけだ。政治は、この小説に似合わない。なんといっても、単純すぎる展開や、人物の動きでは、説得力がなくなってしまう。最後の方で、人類の有史以来の歴史や、未解決だった太古のミッシング・リンクが理められるのだが、結末に至るまでがやや苦しい。ポリティカル・フィクションの類を読めば分かるように、国家レベルの駆け引きを破綻なく描くのは、極めて難しいのだ。だから、本3部作の第1作が、そういう問題を一切棚上げにした設定(世界が平和の下に統一され云々)は、まさに大正解だった。しかし、3部作を書き進めていくうちに、どうやらホーガン自身、そのわざとらしい設定が気になったのか、本書でつじつま合わせをした形跡がある。もったいないですよ。この作者の持ち味は、こんなところにはないんですから。――結局、3作を全体的に読んでの評価は、やはり第一作目がベスト。以下ポルテージが下がって、1作目を凌ぐ作品はなかった。借しい。