あなたの魂に安らぎあれ
神林長平(早川書房1983/1刊)


あなたの魂にやすらぎあれ(早川書房)
(SFノヴェルズ版カバー)





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 この書評は、『世界のSF文学』(第3版/自由国民社)に収録されたもの。同書の性格から、書評というより紹介記事に近い内容となっている。(1984年12月刊)

 秋川誠元は、様々な夢に悩まされている。それは、どれ一つとっても、彼自身の記憶とは、無関係の夢なのだった。一体この夢は、何を教えようとしているのだろう。

 破沙空洞市は、火星の地下深くにある。そこで、人間たちは、幻覚装置に取り巻かれ、無気力に暮らしている。一方、地上には、門倉京と呼ばれる都市がある。そこはアンドロイドの町だ。遥か昔から、地上と地下は、二つの異質の種族によっての住み分けられている。人間は、歓楽を求め、なけなしの金を払い、陰欝な地下から地上に出る。けれど、アンドロイドを抹殺しようとする暴徒と、保護局との対立――その反対に、アンドロイドに広がるエンズビルの宗教伝説と、混乱は、都市の至るところに蔓延していた。そんなある日、地下教会の僧侶サイ・玄鬼は、アンドロイドの神“エンズビル”の降臨を予知する……。

 神林長平は、第5回ハヤカワSFコンテストに、 短編「狐と踊れ」で入選、その後も『七胴落とし』(1983)、『戦闘妖精・雪風』(1984)など、精力的に作品を発表し続けている。本書は、著者の処女長編にあたる書き下ろし作品。ディックを思わせる導入部から、独自の言語感覚の世界へと連なる、錯綜した展開が注目される。現行本に、『あなたの魂に安らぎあれ』(早川書房)がある。

*1986年に文庫化されている