ベストSF1
ハリイ・ハリスン&ブライアン・オールディス編
(サンリオ1983/8刊)


SFアドベンチャー
(1983年11月)


ベストSF1(サンリオ)
(サンリオ文庫版カバー)

 1968年刊行のベストだから、もう15年前の作品集てあり、同時代感覚が薄れているのは、やむを得ない。巻末にオールディスの評論「紙宇宙船の騎士たち」が収められていることでも分かるように、当時SF界はニューウェーヴ論争で揺れていた。思い出してみても、NW−SF2号(70年刊)で、ほばリアルタイムに訳載されたこの評論を読んだころは、(評者には)まだ全貌の掴めていなかったSF界に、それを覆そうとする動きすらあるのだと分って、昂揚感を覚えたものだった。いろいろな点で、歴史的な意味を持つ年間傑作選である。

 68年には、4種類の傑作選が出た。ジュディス・メリル『年刊SF傑作選7』(内容は66年のベスト)、ウォルハイム&カー『ホークスビル収容所』、そして、本書と、あと『ネビュラ賞傑作選』(単行本としては未訳。編著は毎年かわる)これだけが、同時期に並んでいるわけだ(ただし、翻訳はメリルが7年前、ウォルハイム&カーが3年前と、大幅に期間が空いてしまった)。

 はじめの3冊は、内容の面でも大きなへだたりがある。メリル版は、12冊続いた一連のシリーズの、最後の1冊だった。いわば、爛熱の極みといったところ。一方、ウォルハィム&カー版は4冊目で、ほば完成の域に達していた。本書、ハリスン&オールディス版は、標題通りこれが第一集である。まだ形が定まらず、模索状態だった。ずいぷん対照的な3冊が、同じ年間傑作選として、並んだものだ。年度がずれているメリルを除いても、残り2冊の収録作は一編しか重複していない(英未のSFベストでは、対抗意識もあって、むしろ重なる場合の方が稀なのだが)。

 唯一の重複作は、シルヴァーバーグの上質の中篇「ホークスビル収容所」である。シルヴァーバーグは、この後、アメリカン・ニューウェーヴを象徴する、割合重要な位置を占めていくことになる。いかにも文学的な構成をとりながら、いま一歩突っ込みに欠ける作品も多かったから、功罪相半ばというところか。70年代初期に、我国でも多くの作品が紹介されている。現在、人気はやや沈滞ぎみ。本篇は、古代陸棲生物の生まれる以前の地球に追放された、政治犯たちを素直に描き出した作品である。なんといっても、後期作のくどさがない。

 その他、本書の収録作14篇(小説)のうち、主なところを拾ってみると――まず、不気味な植物だけの惑星を描く、クリス・ネヴィル「ジルの森」。ネヴィルの時々見せるさりげない恐怖には、なかなかの味がある。メリルの傑作選でもおなじみ、短篇では抜群のうまさを誇るフリッツ・ライバー「電話相談」は、会話だけで綴られている秀作。ゲィリー・ライト「氷の鏡」は、スピード感溢れる未来のボブスレーを描き、印象に残った。巻末に置かれたオールディス「紙宇宙船――」も重要だろう。当時の背景を考えながら読むと面白い。

 ひと昔半前の中短篇だが、どうしようもなく古びてしまった作品は、さすがにない。時事的なムードを持った作品などは、一歩距離を置いて客観的に読める。それだけに、逆にいえば最新SFをリアルタイムにダイジェストする“年間傑作選”の機能を果していないわけでもある。はじめにも書いたけれど、時間の経過は、編著の意図すら、変質させてしまう。オールディスの評論後、SF界がどう動いていったかを考えても、その点は明らかだろう。同じ68年刊のベスト、ウォルハィム&カ−とハリスン&オールディス、作品集の出来としてなら前者が上かもしれない。しかし、ちょっとぶ厚すぎるきらいもあるし、手軽に読めて問題意識もある点で、むしろ本書を推したい。