(初版のカバー)
(現行本のカバー)
この書評は、『世界のSF文学』(第3版/自由国民社)に収録されたもの。同書の性格から、書評というより紹介記事に近い内容となっている。(1984年12月刊) |
太陽系の近傍に、中性子星が接近する。宇宙船セントジョージは、<竜の卵>と名付けられたその星へ探査に向かう。
中性子星への飛行――それは、科学探索史上、未曾有の出来事であるはずだった。だが、表面重力670億G、地表温度8000度、しかも、直径20キロ足らずのパルサーに、知的生物が存在するとは、もちろん誰一人想像していなかった。
彼らの原子核は、電子の代わりに、中性子そのものを交換する。分子結合の代わりに、核結合を利用する。従って、進化の速度は、人類の百万倍にも達した。
2050年5月22日、軌道上に姿を現わしたセントジョージは、その生物、チーラ達に重大な影響を与えた。<竜の卵>を巡る衛星は、まさに、神の存在を彼らに教える。原始の生活にあったチーラは、やがて社会を、宗教を生み、文明を育むのだ。
6月21日、人類の時間でわずか1月のあいだに、百万倍に進む文明は、遥かにその神々を凌駕し、やがて、チーラは宇宙の真理を求めて、飛び去っていく。
著者のロバート・L・フォワードは、重力理論を専門にする科学者である。本書は、その専門を遺憾なく発揮した傑作で、中性子上にすむ生物と、人類の出会いというアイデアが画期的だ。これは、『重力の使命』(クレメント)以来の、SF独特のアイデア
(ある科学的な理論に基づいた舞台設定)
を現代的に、最大限生かしたものといってよい。
翻訳書には、山高昭訳『竜の卵』(早川文庫)がある。 |