S-F図書解説目録1946‐70(上)
石原藤夫編(SF資料研究会1982/7刊)


SFアドベンチャー
(1982年11月)

SF図書解説目録
書籍版カバー

 SFの書誌的な資料には、一種独特な手触りがある。これは、文字通り“手触り”で、装丁、活字からレイアウトまで、あらゆる面が、本来資料や統計の持つ、ポーカーフェイスの無個性さと違っている。この一冊全てが、SFの堆積によって形づくられていると感じるのは、あるいは量の完備した今の時代には、そぐわない感性なのかもしれない。――と、それでも、本書はファンたるもの必携の資料なのだとあえていっておこう。上、下巻で、1000頁を優に越えるこの本を目の前に置いて、“SFの重み”を知るのもまた、十分意味のあることなのだから。

 本書は、1945年8月(終戦直後)から1970年までの25年間に、我が国で出版された全SF図書を網羅する、総解説目録である。約10年前に出た初版の増補改訂新版、今回は2分冊の上巻だけだが、B5判で635ぺージ、収録書数は3200冊に及ぶ。膨大な資料である。SF関係の単行本をまとめたもので、今手に入る資料というと、本書の他、一部個人作家の目録があるぐらいだ(プロフェッショナルな出版では、WHO'S WHO 的なものや、なんでも百科が多い)。考えてみれぱ、この後現在まで、10年間で本書の収録点数以上のSF関係書が出ている。その意味でも、戦後期の再整理は重要だろう。

 これまで、SF関係の資料集は、ほとんどが個人レベル、ファン出版レベルで発表されてきた。本場英米圏でも事情は同じだ。海外で出た資料の多くも、編者である個人が生み出してきた。資料−目録類は、短時日で出来はしない。十分な精度と、収集の範囲が問題になる。たしかに、資料の正確さは、時間と努力を積み重ねれぱ、重ねるだけ上ってくる。――上ってはくるが、どこまでやれぱ完成、という境界がない。はじめてしまうと、終りのない作業なのである。終らせることは簡単だけれども、相手の方から終ってくれるものではないのだ。手を抜くと、いいかげんな資料が出てしまう。リスト類の遺漏は、意外に見つかりやすい。欠落が目立つ資料は、事実上使いものにならない。しかし、たとえいいかげんでも、並の努力では出すところまでさえいかないものだ。たとえば、本書の10分の1、300冊ぐらいの本を、個人別にカード化してみたらわかる(その程度の本なら、持っている人もめずらしくない)。根気が続くだろうか。現物が全て手にある場合でも、原題(出典)など、データが揃わないものが多いのだ。だからこそ、インデクスの、単なる書名と作者名の集積の中から(それが冷静で精緻であればあるほど)、編者の執念のようなものが伝わってくる。報酬どころか、出費のひどくかさむ個人レペルで作業を続けるのは、まさしく執念ではないかと思う。

 ぺ−ジを開くごとに、ちょっとした発見にめぐりあえる。戦争の終ったその日(8月15日)に出たSFも、本書の新発見の一つだし、絶版になった本、意外な時期に出ていた本(最近は再版が進んでいて、見分けが付けにくい)など、発見がいくつもある。チェック・リストや、辞書的な便い方もいいが、“リストを読む”楽しみもある。リストなんかいらない、という人もいるだろうが、それでは楽しみを一つ放棄することになる。少なくとも、図書館には必らずあってほしい資料だ。見当らないときは、購入希望図書に上げておこう。こういった個人出版物の場合は、利用者の希望が、大きくものをいう。