虚航船団
筒井康隆(新潮社1984/5刊)


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(新潮社版カバー)



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 この書評は、『世界のSF文学』(第3版/自由国民社)に収録したもの。同書の性格から、書評というより紹介記事に近い内容となっている。(1984年12月刊)

 まず、コンパスが登場する。彼は気がくるっていた――いや、そういう意味では宇宙船団に属する、文具船の乗組員全員が、何らかの形でくるっていた。船長赤鉛筆を始めとして、日付の分からなくなった日付スタンプ、あらゆる事を、ただ数え続けるナンバリング、お互いのアイデンティティを持たない、雲形定規たち、ロボットと思い込んでいる分度器、老いに対し病的な恐怖を感じる下敷き、男色家の消しゴム、色情狂の糊、殺人狂のパンチ、回りの総てが敵と感じるチョーク……。そんな彼らに、惑星クォール攻撃が、指令された。

 クォールは、鼬族の星である。鼬族十種――グリソン、クズリ、タイラ、ゾリラ、イイヅナ、オコジョ、スカンク、テン、ミンク、ラテルらは、一千年の歴史の間に、文明以前から、やがて、現代に至る進歩の道を歩む。それは、人類がたどった歴史と、ある面では似通い、ある面では、また別の道につながる。見方によれば、鼬たちによる、人類史そのもののパロディとも読めるものだった。

 そこに、文房具たちの、種族殲滅攻撃がかけられる。都市は破壊され、大半の鼬は死に絶えた。けれど、わずかな文具たちに、総ての生き残りを、殺す事までは出来ない。彼らもまた、一人一人倒れていく。――この最後の章は、「神話」と記されている。

 筒井康隆が、『虚人たち』(1981)以来、ほぼ三年ぶりに書き下ろした、最新長編である。SFの典型的な設定、架空年代記、完全な虚構(生きている文具たち)などなど、著者の総てをたたきこんだ注目作。現行本に、『虚航船団』(新潮社)がある。

*1992年に文庫化されている。