サンドキングズ
ジョージ・R・R・マーチン(早川書房1984/6刊)


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(初版本カバー)

Amazon『サンドキングズ』(早川書房)
(現行本カバー)




SF年鑑1985年版

 この書評は、『日本SF年鑑』(85年版/新時代社)に収録されたもの。(1985年8月刊)

 標題作を含めて、7中短編が収録されている。中編 「サンドキングズ」は、1979年のヒューゴー、ネビュラ両賞を受けた代表的作品である。

 サイモン・クレスには、ペットを飼う趣味があった。だが、それは決して愛玩動物ではなく、互いに殺し合い、争い合う、たとえばピラニアであったり、ハゲタカであったりするのだった。特に、珍しく、高価な異星の生物は、彼の自己満足と、残酷さを同時に満たしてくれるものだった。

 そんなある日、宇宙港の近くで、彼は奇妙な生き物をみつける。サンドキングズと呼ばれる、昆虫に似たそいつは、集合意識の下で、高度な知性を備えていた。自分達の巣に、飼い主の顔を彫りあげ、崇拝するのだという。クレスは、その虫たちに熱中する。群れ同士を戦わせ楽しむうちに、残忍さが、とめどなくエスカレートしていく。けれど、サンドキングズは、死に絶える事がなかった。やがて……。

 その他、地下世界の秘密を探る、「<蛆の館>にて」 、異星の都市に閉じ込められた地球人たち 「ストーン・シティ」 など舞台は異なるが、出口のない罠にはまり込む雰囲気には、本編と同様のものがある。ただし、暗さ、執拗さは、どの作品からも、本質的に感じられない。

 マーチンの作風は、科学的でもなく、論理的ともいえない。それは、リサ・タトルとの合作『翼人の掟』を見ても、明らかである。しかし、物語は、決して破綻を起こさず、描写も詳細にして、過不足がない (色彩感覚に優れている) 。読み手を飽かせない説得力もある。モダン・ホラーを思わせるというのも、現実からみだりに遊離しない、この幻想の質に由来するのだろう。