沈黙の声
トム・リーミイ(サンリオ 1981/11刊)
単行本一冊分の短篇と、長篇一本を残して世を去った、トム・リーミィのこれは処女長篇であり、遣作でもある。
二○年代アメリカ中西部の夏、とある田舎町を訪れたフリークス・ショウの一座――人魚や小人、蛇女、ケンタウロス、そして白子のエンジェル。そこで、町に住む三人の少女たちは、各々不思議な体験をする。
アメリカ中西部とか、カーニバルのイメージなど、一見、ブラッドペリを思わせる設定である。しかし、基本的に少年の夢であり続けたブラッドペリとは違い、リーミィは田舎町の“青春グラフィティ”を描き出している。なんといっても、三人の少女の、いささか風変わりで、危険な臭いさえする、一夏の体験が主題なのだから。ただ、青春小説、ファンタジィ、SFの三つの要素、さらに、アメリカ中西部の雰囲気や時代設定のからみ、三人の少女、フリークスたち、町の少年たちの人物描写と、あまりにも盛り沢山に過ぎたところがある。絞り切れば、もっとよくなっただろう。今さら言っても、しようがないのだけれど、次作が期待できたのに――本当に惜しい。
*本書は筑摩書房から1992年に再刊されている。 |