SFアドベンチャー1984年9月〜12月
(1984年9月以前はpdfファイルで収録)


霊界からの闖入者
小山高男(朝日ソノラマ 1984/5)

 “かいけつ親子丼”シリーズ第一弾。サンライズ製アニメの原作ということなのだが、不勉強にして、詳細不明。とにかく、やたら駄ジャレがきつい話で、そのあたりをどう見るかが、評価の分かれ目だろう。

 親父は、男やもめの49才、再婚はしたいのだが、相手にされない。息子は、これまた親に似て、さっぱりもてない小学生。このでこぼこ親子の前に、ある日、高級霊界人のユーレイティが現われる(霊界小説なのですな、これが)。ユーレイティは、地球侵略を狙う、ペーテン総統の企みを教える。かいけつ親子丼とは、地球を守るスーパーマンなのだ……が、まあそんなところは、ドタバタ・アクションに消し飛んでしまう。だいたい想像がつくでしょう? しかし、アニメのぺースと、小説のぺースとは、明らかに違うから、動きの表現しにくい部分を、駄ジャレで占めてしまうのも、一つの方法である。そういう意味で、ふつうの原作物とは、ちょと違った味だ。ユニークではある。ただし、言葉遊びにならない、単なる駄ジャレが多すぎて、個人的な好みからすると、やや悪乗りのしすぎ、疲れます。

 

デイヴィッド王の宇宙船
ジェリー・パーネル(早川書房 1984/5)

 いかにもパーネルしたアメリカSFである。善し悪しさまざま、嫌う人も多いだろうけど、まずパーネルとしては臭みが少ない秀作。

 最初の宇宙帝国が崩壊し、第二帝国が、ようやく混乱を回復しようとしつつある時代、“サミュエル王子の惑星”は、帝国軍の力を借りて、惑星統一を図っていた。しかし、これは帝国側の巧みな陰謀で、技術的未開状態にある現段階では、自治権のない植民地にされてしまう以外に、将来の道は残されていないのだ。 かつて統一戦争に逆らい、 戦ったマッキニーは、統一政府の要請を受けて、遥か異星にある図書館へと向かう。その情報を得、もし宇宙船が作り出せたなら、少なくとも、自治権は守れる。これは、帝国との駆け引きなのだ。だが、目的の星マッカサーは、彼らの星以上に、未開の世界だった……。

 主人公は、五十才のおっさん。今は亡き、ジョン・ウエイン風。基本的には、未開人相手の中世戦争物。臭さが少ないのは、パーネルの面目躍如というべき、戦闘場面の迫力に負うところ大である。――下手な演説をやめて、ここに集中してれば、いい人なんだけどねぇ。

 

S・Fマガジン・セレクション1983
早川書房編集部(早川書房 1984/6)

 SFマガジンベストの最新刊、昨年版である。メンバーは、82年版とほとんど変わりがない。翻訳物を含まないベストなので、ある程度顔ぶれが似通ってしまうのも、やむを得ないのだろう。全14編。

 ベスト・オブ・ベストを選ぶなら、以下の四編。その一、大原まり子「愛しのレジナ」は、短編集にも収められた作品。男の心に潜む、異星の生命と彼の娘――その二つの要素が、フラッシュバック風に描かれる。もてない男と女友達が、ある日異次元へと流される、夢枕獏「四畳半漂流記」は、後半四畳半から、大きく世界が広がっていく。難波弘之 「わらし」は、ミユージック界の内幕が生々しい。コンピューターに識別されず、ディスプレイが読めない代わりに、禁断の書物を読む少年…… 神林長平「ペンタグラム」は、作者得意のパターンだ。これらは、いずれも、悪魔や超自然的な存在が、大きな役割を果たす。神秘趣味とまでは、行かないのだろうが、ハードさとは対照的だ。もしかして、去年の流行? ただし、どの作家も既に定評を得ており、そつのない出来である。それだけに、あっと驚く新奇さはない。残念ながら。

 

Amazon『魔獣狩り』(祥伝社)

魔獣狩り 暗黒編(サイコダイバー2)
夢枕獏(祥伝社 1984/7)

 サイコダイバー・シリーズの第二弾。物語は、前巻の後を受けて続く。――空海のミイラを奪った謎の集団“ぱんしがる”とはなにか。その目的は、そして、ミイラに潜むものとは……。

 本当ならば、ミイラの秘密が、物語の中心を占めるはずだったのだろう。けれど、人間関係の方が、かえって面白味を増した。九門はより飄々とした人物に、美空はより酷薄に、文成はより獣的にと、登場人物の個性が前巻以上、さらに強調されている。事実上、この三人が総てであり、その他敵側の黒御所 (どっしり構えた黒幕タイプ)、蓮王母 (蛇のような淫蕩女) の影は薄いというか、ややありふれている。夢枕の、全身これ格闘技的人物に比べると、どうしても印象が薄くなる。問題があるとすれば、むしろその辺りだろう。

 この本の後書きには、ちょっと異色の告白が書かれている (読んでみて下さい)。これは、昔からのSFファンだった著者の、本音とも取れる内容だ。つまり、それだけ、プロのルーチンワークでは得られない、誠実さで書かれたシリーズなのである。以下、続巻。

(*本書を含む魔獣狩り3部作は2004年に1冊の合本で再刊されている)

 

生存者の回想
ドリス・レッシング(サンリオ 1984/7)

 終末のロンドン。緩慢な死を迎えつつあるその都市に、“私”と少女エミリ、そして一匹の獣、ウィクターがいる。無法化していく世界の中で、大人の女に成ろうとするエミリと、私とのあいだに、さまざまな葛藤が生まれる……。

 ドリス・レッシングは、ペルシャに生まれ、ローデシアに育ち、現在はイギリスに住んでいる、メインストリームの作家。あまり、日本では知られていないが、高名な文筆家でSFにも理解があり、シカスタを初めとする五部作が、少し前に紹介されたこともある。けれど、“理解ある”事と内容とは、必ずしも一致しない。本書もまた、SFの風味を感じさせる作品だが、本質的には、やはり別物だろう。描かれる終末は、あくまで風景であり、対象ではないからだ。 (もちろん、出版社側も、そのことはよく分かっていて、何処にもSFと表記していない)。

 物語の私が感じる惑い、エミリへの気持ち――罪悪感は、そのまま、作者の若い世代に対するわだかまりにつながる。レッシングの言う、“自伝の試み”とは、あるいは、そういうところにあるのかもしれない。

 

地球への侵入者
グルフ・コンクリン(朝日ソノラマ 1984/7)

 グルフ・コンクリンの巨大アンソロジーから、9編を選んだもの。原著の、3分の1以下に当たる。長編を平気で収録してしまう編者のこと、なかなか全訳は難しい。日本では、僅かに一冊『宇宙恐怖物語』が翻訳されているぐらいだ。ただ、アンソロジストとしての評価は高く、優れた(40年代、50年代の)短編を読む指針にはなる。本書も、未訳を中心にとあるけれど、数遍は過去に訳されている。SFマガジンの初期に掲載されたものが――当然のことながら――多い。そういう意味では、覚えている読者も少ないだろう。

 主なところは、「かくれ谷の子供」 (セント・クレア)、「御主人はモンスター」 (スタージョン)あたりか。その他に、ラインスター、ラッセル、ウォークト、マクレインなどが含まれる。懐かしさを覚える人にはいいだろう。あるいは、初心者向きで、ソノラマ文庫的なのかもしれない。ただし、物語の古めかしさは覆いがたく、現代SFをよく知っている人には、読むべき内容はあまりない。異色なのは、「火星人襲来」で、有名なオーソン・ウエルズのラジオドラマ宇宙戦争の台本。これだけは、テンポの速さで救われている。

 

綺型虚空館
梶尾真治(徳間書店 1984/7)

 11編の最新作を収めたもの。梶尾節にあふれる一冊。気弱き人々、それはチーズ・オムレットの虜になり、サンタクロースに取り付かれ、ちゃんこ寿司に恐怖し、あるいは、机の引き出しに、金木犀の過去を見出だす。以上、典型的な登場人物たちである。かれらは、文句を口に出さず、黙って堪えるだけだけれど、病気の少女のために時間を止めて見せたりする、心優しき人々でもあるのだ。

 そうそうもう一つ、臆面もないほどの、あまいラブ・ストーリーが、作者の別の顔。宇宙で行方不明になった恋人、月に描かれるラブ・レター、純情で一途、中には片思い。同じですね、主人公達は、みんなすばらしく優しいのです。

 まだまだあって、「仰天号の冒険」、「奔馬性熱暴走」など、限りなきホラ話の味。次々とお話が、エスカレートしていく。昔ながらの、SFの雰囲気だ。ちょっと変な言い方だけど、読んでいて″安心″できる。オリジナルでありながら、どこかで見た覚えがある――読んだ記憶がある、そんな懐かしさが、やはり梶尾真治なのだろう。なかなか、こういう味は出せまい。

(注:本書は1986年に『宇宙船「仰天(ヴィークリ)」号の冒険』に改題され早川書房から再刊された)

 


Amazon『人類狩り』(東京創元社)ビーストチャイルド
ディーン・R・クーンツ(東京創元社 1984/8)

 1971年の、ヒューゴー賞候補作にも上がった作品(ノヴェラ部門)。本書は、それを長編化したもの。

 地球は、長いナオリ族との戦争の後、滅び去った。ナオリ族の考古学者フランは、都市の廃墟を発掘中に、偶然地球人の少年と知り合う。少年レオは、なぜか彼を助けたのだ。地球人は、総て抹殺しなければならない――そう教えられていたフランだったが、しかし、少年を殺すことは出来なかった。厳密な精神管理を受けている彼には、もう逃亡の道しか残されていない。後からは、冷酷な<追跡者>が、着実に迫ってくる……。

 ロングイヤーの「わが友なる敵」(ノヴェレット) を思わせる設定ながら、ちょっと共感できない部分が多い。そもそも泣かせの話なのだから、″甘い″のは、本来それほどの問題には、ならないはずなのである。それが、ここまで気になるのは、異種族(爬虫類)である主人公と少年とが、お互い助け合い、引かれ合う理由に、いまいち説得力がないからだろう。この辺り、書き伸ばしの弊害が出ているのではないか。中編ならば、この程度でも、良かったのかも知れない。

(注:本書は現在『人類狩り』に改題されている)

 

Amazon『魔境遊撃隊』(角川春樹事務所)

魔境遊撃隊(第1部)
栗本薫(角川書店 1984/8)

 またまたシリーズ物です。しかも、今回は、書き下ろし文庫。書き下ろしを売り物にする、光文社文庫に対抗してのことでしょうか。それはともかく、本書の主人公は栗本薫クン。こう書けば、熱心な栗本ファンの方には、すぐにピンとくるでしょう。もっとも、ミステリではありません。メリットのムーンプール を思わせる、南洋を舞台にした秘境冒険物。

 探検隊の隊長は、絶世の美少年、印南薫。隊員はというと、いつも日本刀を体から離さない、秋月慎悟。サーカス上がりの日光、月光兄弟。マッド・サイエンティスト雷電博士。あとは、侍従の杢内老人。最後が、僕こと探偵役の栗本薫である。宣教師の日記が書き記るした謎を追って、この奇妙な探検隊は巨石文化の遺る小島、セント・ジョゼフにやってくる。そこで彼らを待ち受けていたのは、怪しげな白人達、原始的な土人の群れと、そして、妖精を思わせる少女メナだった。

 この後、土人達=ガンボバ族の伝説、降臨する神=ンチャーナの出現などなど、話は進む。続刊の伏線である。登場人物の顔見せが、本巻の役割だろう。

(注:本書は1998年に角川春樹事務所から再刊されている)

 

魔界戦記
田中文雄(角川書店 1984/8)

(pdfで収録)