首都消失
小松左京(徳間書店1985/3刊)
SFアドベンチャー (1985年7月) (徳間ノベルズ版カバー) |
小松左京には、ずいぶん昔から“消失”というテーマがあった。最初期の短編「お召し」は、ある日突然、大人たちのいなくなった社会を提示している。少年少女だけになった社会のありさまを描いたものだ。このテーマは、後に『こちらニッポン…』(わずか数十人を除いて、日本国民がすべて消失してしまう)で、再び物語れることになる。 |
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【ストーリー】 早朝、東京に向かう新幹線は、名古屋を出てしばらく進むうちに、濃霧に飲まれ停止する。そのうち、東京が霧の壁によって閉ざされ、すべての交通通信が途絶していることが判明する。直径30キロの円筒は、物理的に不透過な文字通りの壁を形成していたのだ。行政、外交、マスコミのあらゆる中枢“首都”を失うことは、日本に計り知れない打撃を与える。 【人物】 S重工課長朝倉。研究部長竹田。顧問大田原。しかし、中心になるのは地方新聞の野人、田宮である。地方に隠退していた老政治家も登場する。 【政治】 中央政府が消滅した後、地方自治体による、政府臨時国政代行機関が作られる。 【経済】 大阪日銀を中心に必死の建て直しが試みられるが、GNP2割減(東京地方)の穴埋めは難しい。 【外交】 生き残り外交官により、米ソの干渉だけはなんとか食い止められる。 【軍事】 ソ連による大規模な威嚇演習が行われる。 【“壁”】 円筒の上空を飛行した米軍のEP3Eは、強烈なニュートリノと雷撃を浴びる。同時に、筑波の粒子観測装置は、水平方向から飛来するニュートリノを記録していた。1章を費やして描かれるこの部分の密度が、凡百の政治サスペンスと、小松SFとの差を示すところだろう。 結局壁の正体が何であったのか、首都消失が、日本を本質的にどう変えてしまったのか、明快な答えは得られないまま、物語は終わる。しかし、それは本来読者がみつけるべき解答であり、問題の性格からいって、決して正解の得られるものではない。 物語は問う、“首都消失”とは、何を意味するものか、と。 |