彗星の核へ
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『タイムスケープ』や『夜の大海の中で』で知られるハードSFのベテラン、グレゴリイ・ベンフォードと、『スタータイド・ライジング』、『サンダイバー』で人気を高めた新進気鋭の八〇年代作家、デイヴィッド・ブリンとの合作――と書いたところで、大体のお話しが分かってしまったのではないか。 予想するのは、別に難しくないのである。ベンフォードの『星々の海をこえて』では、小惑星を改造した、恒星間宇宙船が登場する。本書は、太陽系の中にとどまるとはいえ、彗星を宇宙船に改造する物語だ。また、『星々―』の、傍観者的な主人公ナイジェルは、サウルという生物学者になって再登場する。主な人物がそれだけでは、(ベンフォード流の)煮え切らない人物に、もどかしさを感じるだろう。政治的主張など、クセのあるさまざまな人間―コンピュータエンジニアのヴァージニアや、航宙士カール―が、物語に彩りを添える。生臭さすら感じさせる彼らは、ブリンの得意とするところだ。それに、波乱万丈迫りくる危機また危機―の飽きさせない展開は、ベンフォードだけでは、とても書けなかったろう。 ハレー彗星に、四百名のチームが送り込まれる。探検のためではない。ハレー彗星の軌道を変え、次に内惑星に接近する七〇年後に、その鉱物、水資源を利用しようという、壮大なプロジェクトだった。計画は順調に推移する。たとえ、乗組員の中に、パーセルと呼ばれる遺伝子を改造された人間と、それを排斥しようとするアーク主義者が混在していたとしても。だが、彗星は決して死の世界ではなかった。チームの居住区が発するわずかな熱が、ハレー彗星土着の生命たちを呼び覚ましたのだ。異星生物との戦い、そして、二種類の人間たちの争い。やがて、全く新しい生態系と、生命が生まれる……。 SF界では、ハル&ヴォート、カットナー&ムーアなど、夫婦が合作する例は多かった。ただ、これは座興的なもので、そう長く続かない。大傑作も生まれない。一方、長期に渡る合作の成功例として、ポール&コーンブルース、アンダースン&ディクスンらが有名だ。しかし、いずれも、過去の組み合わせである。最近のベストセラー・コンビ、ニーヴン&パーネルは、二人分二倍面白いとは言えないだろう。必ずしも、各人の資質を高めあっていないのだ。 ベンフォードは合作を得意とする。これまでも、エクランドやロッツラーらとの共著がある。ただ、ベンフォード自身が一貫したストーリーを不得意とするだけに、相手としてやや腕力不足だった。似通いすぎているのである。その点、ブリンとの組み合わせは興味深い。 ハードSF巨篇とある。だが、科学的事実が主眼ではないだろう。では、自由と正義と人類のためとか、凶悪な異星人が出てくるかというと、そうでもない。まず、本書に哲学はない。政治思想も目立つほどはない。驚くべき人物もなく、新しい文体、新しいアイデアさえ少ない――何もないようだが、しかし、それら総てが、いくつかづつ含まれている。この配分は難しい。物語の最後に至るエスカレーションは、サイバーパンク風でさえある。彗星の最新科学、遺伝子工学、有機コンピュータ……情報が溢れかえる最新の冒険SFとして、読まれる資格は十分にあるだろう。ややぎくしゃくとした部分、納得できない展開は確かに残る。けれど、互いの欠点・長所を補いあい、ドライヴ感は増した。合作はまず成功と言える。(未着手の続編には、ちょっと不安が残りますが)。 |
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