ハイブリッド・チャイルド
大原まり子(早川書房1990/6刊)


SFアドベンチャー
(1990年9月)

装幀:辰巳四郎 イラスト:加藤洋之&後藤啓介

 評者にとって、大原まり子は、つねに意表≠突かれる作家だった。本書もそうである。文章を読んでいるとき、あらすじを追っているときに、予想もしない言葉や、不連続な展開が、いたるところに顔をのぞかせるからだ。だから、評者にとっての大原まり子は、つねに驚きの源泉なのである。

 『ハイブリッド・チャイルド』は、連作作品集で、かつ、デビュー以来書きつがれた、未来史シリーズに属している。短篇「ハイブリッド・チャイルド」「告別のあいさつ」と、中長篇「アクアプラネット」の三篇が収められている。

 人類とアディアプトロン機械帝国との戦いがつづく中で、人類はしだいに劣勢に立たされていた。そこに登場したのが、究極の兵器サンプルB群である。変幻自在のハイブリッド・ユニットと、遺伝情報のとりこみを武器に、戦争を勝利へと導けるはずだった。ところが、そのうちの一体が逃亡する……。

 設定は、無敵の殺戮機械バーサーカー=iセイバーヘーゲン)を思わせる。しかし、本書は、戦いや死を即物的に描くような、殺伐とした、しかも単純なお話しではない。バーサーカー自体は、妙に間がぬけていて、親しみやすさがあったのだが、それとも異なる。作者の最近のテーマの多く――母殺しや、孤独、救済、神の存在や、愛しさなどなど――が渾然となって、読み手にめまいをひきおこすのだ。

 たとえば、
 逃亡したサンプルB群=ヨナは、母に殺された少女から遺伝子をもらい、そのため少女の姿をしている。やがて、その記憶の中から生まれた母を殺す。母に殺されると同時に、母殺しの宿命を負う。

 たとえば、
 800年間を生き、老人で生まれ、逆に若返っていく神に仕える神官は、時を自由に渡り、神として神託を与える。かれは敗色濃い人類を救うもの=軍神なのである。その神の遺伝子は、少年の姿をした、もう1つのハイブリッド・チャイルドにあたえられる。だがあるとき、かれは、神そのもの=自分自身に遭遇する。

 たとえば、
 不治の病にかかり、衰える体を生命維持装置――白い棺――で守るシバ。機械帝国との戦争の結果、障害をおこし、狂いながら惑星を支配する人工知能ミラグロス。荒廃した惑星で、ひそかに隠れ住むアディアプトロン人の敗残兵。神の啓示を受け、教会に奉仕する少女ラフレシア。ミラグロスの破壊を指揮するボスは、母に虐待された記憶から、少女をつぎつぎと虐殺する……。

 物語の最後は、『幻想の未来』(筒井康隆)を思わせる黙示録となっている。

 以上は、すべて順不同にあらわれ、お互い関連し合いながら、物語をつくりあげていく。共通するのは、登場人物たちが、親や子や生き物たちの殺戮者であり、それゆえに救済をもとめている点だろう。だれかの救いの手を渇望しているのだ。

 母殺しの被害者であり、加害者であるヨナは、六年前に書かれた「ハイブリッド・チャイルド」で登場した。本書の中では、この短篇がもっともよくまとまっている。しかし、「アクアプラネット」に見られる混沌こそが、連作の主題なのだろう。小説の結構を崩してまで描きだそうとした、壮大なテーマがこめられているからだ。

 大原まり子は、ある意味での戦略作家≠フ位置を占めている。つまり、日本SFの趨勢を左右する、中核作家の一人である、ということだ。