かつての星群の論客、井上祐美子『桃夭記』(徳間書店)は、落ち着いた出来の短篇集。もはやベテランの境地に達したかに見える。破天荒さが欲しいところ。
鏡明編『日本SFの逆襲!』(徳間書店) ファンタジイ大賞に逆襲されている。残念ながら、なにを逆襲したのかわからない。
大槻ケンジ『くるぐる使い』(早川書房) 独特の無気味さが魅力。話の中味の割りに、暗くないのが特に無気味。
イアン・ワトスン『存在の書』(東京創元社) ご苦労さんといいたい。
荒巻義雄『シミュレーション小説の発見』(徳間書店) シミュレーションノベルの祖、荒巻義雄の理論的背景。正直な記述だが、だからどうしたのかの理由付けが不足しているように思える。
池上永一『バカジーマヌパナス』(新潮社)/銀林みのる『鉄塔武蔵野線』(新潮社)
ファンタジイ大賞受賞作。ますます、SFとは遠くなる。これをSFだといわなきゃならんようでは、もうお終いである(もちろん作者がSFだといっているわけではありません。要は読み手の姿勢の問題)。本書自体はよい。
ギブスン『ヴァーチャル・ライト』(角川書店) 地上げ屋の陰謀をひょんなことから知った、元警官と宅急便の姉ちゃんが、ハッカーの助けで悪をマスコミに暴露する、というお話。まあ、こんなもの。ヴァーチャル・ライト、という言葉のイメージからはちょっと遠い。
94/12/20
ルポルタージュ・関西文化学術都市探訪
バスに乗って、対向車とすれ違えない、車線なしの田舎道を左右に揺られて十数分、忽然とあらわれる四車線道路。彼方に見えるのは、ヘリポートつきの巨大ビル、利用者もない都ホテルの宿泊棟と企業向ラボである。土地が余っているので、なんでも贅沢に作られている。容積率十パーセントくらいしか使われていない。公園だか、私有地だかわからない、広大な敷地。
あまり知られていないが、この地域のすぐ北辺には、閉ざされた自衛隊弾薬庫がある。もちろん、スカッドミサイルやら毒ガスをはじめ、戦術核兵器までが各種貯蔵されている。
西にまっすぐ走ると、パラボラアンテナが林立する衛星受信局がある。その先で道はとだえる。
南には住宅街が広がって見える。谷に隔てられて、行き着く道はない。まったくプリズナー的世界である。
東には、ATRやら地球環境科学研究所やら、国会図書館西部分館などがある。これまた、広大な敷地である。無人の職員住宅が空しく並んでいる。なかでは、ほとんど実用化の目処が立たない研究が、えんえんと続けられている。
住宅街の光ファイバーは何のためかというと、子供が利用するビデオ・オン・デマンド(双方向CATV)と、子供しか使わないテレビ電話のためにある。大人は町内TV電話なんか、ばかばかしくて使わない。(ファイバーが繋がっていないよそとは、当然話せない)。筆者の町内にはいまのところないので、ただのCATVを見ている。三〇数チャンネルあっても、普通のテレビではチャンネルが足りない。有料チャンネルは、映画しかソースがないようで、まだ、あまり利用価値はなかろう。
地域は山林に近く、はるかに都会より寒い。チベットほどではないだろうが。
(註・東の筑波は、かつて日本のチベットと呼ばれていた。今でもかな)