文明のサイボーグ構造=テクノ・ガイネーシス
(週刊読書人94年3月11日)
小谷真理『女性状無意識』

 きわめて注目すべきSF論が出た。小谷真理の『女性状無意識』(勁草書房・二九八七円)である。ここで述べられる、テクノ・ガイネーシスとは、現代を象徴するテクノロジーと、あらゆる女性的なものの総称ガイネーシスとが融合して生まれた言葉だ。フェニミズム批評と女性SFとは、七〇年代以降互いに錯綜しながら、八五年に発表された「サイボーグ・フェミニズム」理論により結合する。サイボーグ=有機体/機械の混合物とするなら、対立概念でしかなかった男/女関係も、全く新しいものに変貌しうる。本書の中では、SFの背景に潜むことを余儀なくされた女性概念が、ハイテク時代のキーワードとして、新しく読み解かれる。『闇の左手』から、最近の話題作まで、母娘関係/出産/女性性器/父権/エコロジー/やおいカルチャー(少女向け少年愛)等々、さまざまな視点により、文明のサイボーグ構造が注意深く点検されるのである。参考文献の一つ一つに註釈がつけられるなど、隅々まで、著者の気配りと意気込みとが感じられる力作評論だ。

 近未来の日本、出産はAUと呼ばれる人工子宮で行われるようになる。妊娠をすること自体が希少価値と化し、妊婦の保護区「バルーン・タウン」が作られた……。ということで、松尾由美の連作集『バルーン・タウンの殺人』(早川書房・五六〇円)を続けて読むと、主人公たちの、男性的社会にたいする皮肉な独白に、別の意味合いを感じ取れるようになる。なお、表題作は第一七回ハヤカワSFコンテストの入選作(第三席)でもある。

 翻訳では、チャールズ・プラット『フリーゾーン大混戦』(早川書房・六八〇円)、マイクル・カンデル『キャプテン・ジャック・ゾディアック』(同・六二〇円)が波乱万丈のパロディSFとして楽しめる。訳者(大森望)が同じせいでもないのだろうが、結末までよく似た雰囲気だ。後者の方がやや暗い。

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