黄金の五〇年代SFを読む(週刊読書人94年6月10日)
野田昌宏
『愛しのワンダーランド』
野田昌宏には『スペース・オペラの書き方』(一九八八)という作品がある。今度出た『愛しのワンダーランド スペース・オペラの読み方』(早川書房・一八〇〇円)はその続篇。といっても、ハウ・ツー物ではない。ハインライン、アシモフ、クラークと、黄金の五〇年代SFを語る第一部は、そのまま独立した作家論として読める。しかも、巨匠に対する単純なオマージュは見られず、従来なかった建設的な視点が際立つのである。例えば、ハインラインでは『銀河市民』、アシモフでは『われはロボット』、クラークでは『白鹿亭奇譚』と、比較的マイナーな作品(アシモフはそうでもないが)に焦点があてられる。あくまで、「小説を書く」ことが目的で読まれているからだ。そういう意味で、取り上げられた巨匠の作品は容赦なく分析されており、どのような点を学ぶべきかが、明快に解りやすく書かれている。しかし、なんといっても、本書一番の収穫は著者の姿勢にあるだろう。SF界の長老といっていい大先輩なのに、SF黎明期(日本でも、もう四〇年前)の清新さ、作家たちへの思い入れが、本書中に横溢しているからだ。
今月も、ファンタジイ大賞関連の作品が出ている。小野不由美『東亰(とうけい)異聞』(新潮社・一五〇〇円)は、明治時代の首都で起こる奇怪な殺人事件が、終盤ファンタジイに抜けていくという、組み合わせの新鮮さが妙味。ただ、この結末はちょっと唐突すぎるようだ。それにしても、帯にある「伝奇ミステリの怪作」という表現は誉め言葉になるのだろうか。
もう一作、恩田陸『球形の季節』(同前・一四〇〇円)は、東北の小都市で、高校生のあいだに広がる噂が、次々と現実化する恐怖を描く。学園ホラー風だが、怖さより高校生のさまざまないきざまが、物語に厚みを与えている。残念ながら、お話自体はやや錯綜ぎみ。