伝説のカルト作家(週刊読書人94年7月8日)

コードウェイナー・スミス
『シェイヨルという名の星』

 どんなジャンルにも″伝説″は存在するけれど、本書『シェイヨルという名の星』(早川書房・六〇〇円)のコードウェイナー・スミスなどは、まさにSF界のカルト的ヒーローといってよい。著作はほんの数冊、主な活動期間は三〇年前のわずか六年あまり、しかも、大半は出来の悪い趣味的な短編だけ。しかし、この作家がSF界に残した功績は、きわめて大きいのである。本書に描かれるのは、奇怪な未来世界だ。奴隷階級アンダーピープルと支配者ロードたちの社会。それは、今日の時代と全く無関係なようでいて、人間のどろどろした性(愛憎)が、かえって剥き出しに見え隠れする社会である。なぜ純朴な愛への渇望が、恥ずかしげもなく繰り返されるのか、なぜこの社会では残虐な刑罰が、ためらいなく科せられるのか。読むほどに奥行きがあり、作者の正体や未来史の全貌を知りたくなる。スミスに関する多くの研究が生み出された理由もそこにある。薄っぺらな書き割りに見えて、背景には豊穣な創造力を潜ませているのである。これは、SFの典型的な魅力を凝集しているともいえる。なお、本書は一二年前に翻訳された『鼠と竜のゲーム』と対をなす作品集である。簡単な著者紹介もあるので、未読の方は併せてお読みいただきたい。

 その他翻訳では、スティーヴン・キング『ニードフル・シングス』(文藝春秋・上下各二七〇〇円)が出た。田舎町にできた不思議な骨董屋のために、町全体が暴力の中で壊滅するというお話。これはスラップスティック+スプラッターとでもいえる作品である。起こる事件はほとんどコメディなのだが、パイ投げの代わりに血肉が乱れ飛ぶわけで、まあ笑えない。

 他では、柾悟郎『もう猫のためになんか泣かない』(早川書房・一八〇〇円)は、作者いうところの″私SF″。作者名から連想するハイテク感は薄いが、いわゆる″奇妙な味の小説″の魅力がある。

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