幅広い収穫の年

カレンダー風ロードマップ

(週刊読書人94年12月23日)

 過去一年間の概況を、カレンダー風にまとめてみる。
bullet[一月]
まず、小谷真理は『女性状無意識 テクノガイネーシス−女性SF論序説』(勁草書房)で、SF大賞を授賞した。SFファンとしての視点に、フェミニズムの切り口を加えた注目のSF論である。

bullet[二月]
エリザベス・ハンド『冬長のまつり』(早川書房)が出た。フリークスに満ちた頽廃の未来世界が、従来にない無気味さを感じさせる。

bullet[三月]
浅田次郎『地下鉄に乗って』(徳間書店)は、多くなったSF風ファンタジイの中で、素直に時間テーマを取り上げた秀作。村上龍『五分後の世界』(幻冬舎)も、やや不満が残るものの、緊張に満ちた近未来の日本が印象的。

bullet[四月]
小野不由美『東京異聞』(新潮社)には、架空の明治世界に作者の力量が込められている。菅浩江『氷結の魂』(徳間書店)は、著者が全力投球するファンタジイで注目を集めた。イギリスのSF雑誌出身の、マイケル・ブラムライン『器官切除』(白水社)は好みにもよるだろうけれど、究極のグロテスクさが売り。

bullet[五月]
野田昌宏の『愛しのワンダーランド スペース・オペラの読み方』(早川書房)は、SFファンの真髄が滲みだす好エッセイ。著者ならではの語り口を楽しめる。

bullet[六月]
今年出た翻訳の中では、コードウェイナー・スミス『シェイヨルとい名の星』(早川書房)が、もっとも待たれていた作品といえるかもしれない。本書の今日的意義をどう見るかが問題だが。

bullet[七月]
谷甲州『天を越える旅人』(東京新聞出版局)は、作者のライフワークともいえる壮大なテーマを感じさせるもの。一方、大原まり子のSF大賞授賞作『戦争を演じた神々たち』(アスペクト)は、『ショイヨル……』と読み合わせてみるのも一興(著者はC・スミスの影響を受けてデビューした)。

bullet[八月]
ジョン・ヴァーリイは、恋愛小説集=wブルー・シャンペン』(早川書房)の他に、『スチール・ビーチ』(早川書房)、『ウィザード』(東京創元社)が翻訳された。本年を代表する作家といえるだろう。山田正紀は、SFの本質を探求する『エイダ』(早川書房)を出した。

bullet[九月]
十五年ぶりの完結、半村良『虚空王の秘宝(上・下)』(徳間書店)は異星の文明を描いた異色作。

bullet[十月]
筒井康隆・井上ひさし・小林恭二選/ASAHIネット・編『パスカルへの道 第1回パスカル短篇文学新人賞』(中央公論社)は、一作二十枚足らずの掌篇集なのに、多彩で重厚な後味を残す。PCネットで作られたという軽佻さは感じさせない。

bullet[十一月]
梶尾真治『スカーレット・スターの耀奈』(アスペクト)、神林長平『言壷』(中央公論社)など中堅作家の連作集が出た。著者の持ち味が十分読み取れる。鏡明編『日本SFの大逆襲!』(徳間書店)は、SF大賞作家・ファンタジイ大賞作家を集めたオリジナル・アンソロジイ。ただ、これで日本SFの全体像を見るのは困難ではないか。大槻ケンヂ『くるぐる使い』(早川書房)は、虐待される幼児たちを明るく&`くという特異なパターンの作品集。

bullet[十二月]
年末の最大の話題は、ウィリアム・ギブスン『ヴァーチャル・ライト』(角川書店)だろう。これについてはまた別途触れたい。ダン・シモンズ『ハイペリオン』(早川書房)は、話題のSF大作である。

bullet 本年は、評論から創作まで幅広い収穫があった。翻訳もやや淋しさを感じさせるものの、話題作が多く出された年だったといえる。あまり触れられなかったが、出版芸術社は、九二年暮れから、日本作家の作品集を精力的に出している。本年も筒井康隆、眉村卓、平井和正、山田正紀らの自薦集などを出版、入手困難な短篇も多く、貴重なシリーズに成長してきた。

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