生命三〇億年の呪い(週刊読書人95年6月9日)

瀬名秀明『パラサイト・イヴ』

 昨年は授賞者のいなかった日本ホラー大賞だが、第二回目で薦者絶賛の大賞が出た。瀬名秀明『パラサイト・イヴ』(角川書店・一四〇〇円)である。生命三〇億年の歴史で、生物に不可欠の共生体といえるミトコンドリア≠ェ反乱を起こし、まったく新しい生き物を創造しようとする。一種のSFホラーだ。主人公は大学の助手、ある朝、妻が自動車事故で脳死状態になったときから、奇妙な事件が次々と起こりはじめる。何者≠ゥが彼をコントロールし、妻の肝細胞を培養させようとする。脳死移植された妻の腎臓が、患者に何かを産ませようとする……。専門用語を(戦略的に)駆使した、最新の遺伝子理論に基づく謎解きは新鮮。現場の大学院生であるという雰囲気(地の利)を、十分に生かした作品といえる。しかし、これだけのスケールがあるのだから、怪物のグロテスクさや一個人、一大学の視点だけでなく、もう少し世界的・地球的な展開を含めても良かったように思われる。八〇〇枚にして、なお結末を急ぎすぎた印象が残るからである。それだけ、中身があったというべきか。

草上仁『愛のふりかけ』

 草上仁『愛のふりかけ』(角川書店・一六〇〇円)は、『お父さんの会社』(九三年)に続く長編。国民総偏差値順位化が日常化した未来、最低順位を言い渡された男が、蔓延する麻薬の、解毒薬をめぐるドタバタに巻き込まれていく。草上仁は、もともと短編を得意とし、著作の八割は短編集である。最近長編に注力していて、年一作程度のペースで書いている。何をやっても成功しない(といって努力家でもない)社会的弱者に対する、独特のユーモア感覚が面白い。ただ、食料危機で人減らしを模索する社会という設定は、本書の中で今ひとつ生かされていないようである。

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