SF£エ大作の完結編(週刊読書人95年7月7日)

ダン・シモンズ『ハイペリオンの没落』

 今月は、昨年暮の話題作『ハイペリオン』の完結編、『ハイペリオンの没落』(酒井昭伸訳、早川書房・三〇〇〇円)である。前作は、登場人物たちが一人一人、自身の運命を独立した短編のように語るというスタイルだった。そして、最大の謎は解明されないまま終わった。今回は一転、惑星ハイペリオンを巡る連邦とアウスターとの戦争が、人類版図の全銀河を揺るがす異変へと連なる過程と壮大な謎の究明が、大河ドラマ風に描き出される。そこに、『ハイペリオン』の登場人物たちの物語が重ね書きされる。シモンズのSFは、まさにSF好きが通俗SFのために¥曹「たものである(ここでいう通俗≠ノ悪い意味ない)。対アウスター戦争に向かう堂々の無敵宇宙艦隊。宇宙を結ぶウェブ(今流行のワールド・ワイド・ウェブの未来版)と、そこに巣食うAI(人工知能)の権力闘争。そしてまた、SFの主要なテーマでもある神≠フ存在に対する議論。一歩間違うと単なる自己満足に終わる、絢爛豪華で、しかし使いふるされたテーマが、何の衒いもなく鏤められている。当然、科学的に奇妙な部分などいくらでもあるはずだが、それをあえて承知の上で書くのも、小説的な効果がある限りSFの(フィクションの)特権である。最近の萎縮したSF大作が多い中、これだけ書くだけでも蛮勇に近いパワーがあるからに違いない(ここでいう蛮勇≠ノ悪い意味ない!)。
 ただ、これまでダン・シモンズの邦訳作品を読んだ限りでは、長編の流れがやや冗長になるきらいがあって、本書も決して最高の出来とはいいがたい。前作の凝集度の高さが、今回逆に物語の一貫性を阻害している。そのあたり不満の残るところだろう。今秋に書かれるという続編(番外編?)に再び期待したい。

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