擬似現実VR≠フ無気味さ(週刊読書人95年9月15日)
ジェイコブスン『シミュレーションズ』
ケアリー・ジェイコブスン編のアンソロジイ『シミュレーションズ』(浅倉久志他訳、ジャストシステム・二六〇〇円)は、古典から現代までのSFを、ヴァーチャル・リアリティ(VR)≠ナ網羅した意欲的な作品集である。VRは一種の擬似現実を意味する。しかし現実を模倣した偽物というテーマは、SFでは旧来から扱われてきた基本アイデアといっていい。作品は多様だが、編者が言う「テクノロジーとしてのVRの可能性」よりも、「悪夢性」を感じさせてくれる内容だ。
ルディ・ラッカー『ラッカー奇想博覧会』
日本での人気がアメリカ本国をも上回る、サイバー・カルト作家ルディ・ラッカーの、日本オリジナル短編集『ラッカー奇想博覧会』(黒丸尚他訳、早川書房・六六〇円)が出た。もともと奇想アイデアでは抜きんでていた作家であるが、短編を読む機会はあまりなかった。今回一冊の作品集として、そのピュアな発想の原点を窺うことができる。とはいえ、ほとんど物語を拒否するような、ワン・アイデアの集大成を見ると、お話重視のアメリカでの人気のなさも、なんとなく解ってしまうから不思議。
野田昌宏『「科學小説」神髄』
もう一冊、野田昌宏『「科學小説」神髄』(高橋良平編、東京創元社・三〇〇〇円)は、三〇年前にSFマガジンに連載されたコラムから、さらに三〇年前(一九三〇年代)の黎明期アメリカSFを読む、資料的にも貴重なエッセイ集。書いた(当時の)作者も、書かれた過去のアメリカも、登場人物は、ほとんど二十〜三十代という若さだ。ただ、アメリカの三〇年代は本書を読めばわかるけれど、かえって、三〇年前の日本の状況が分かりにくい。同時代人でない人のために、日本版の副読本が欲しいところ。