『世界のSF文学総解説』(1984/86?/90?/91?/92?)に収録

ロバート・L・フォワード『竜の卵』(早川書房)
Dragon's Egg,1980(山高昭訳)

Cover Painting:Darrell K. Sweet, Jacket Design:Ann Silver
 
(1982年初版時の文庫)

 太陽系の近傍に、中性子星が接近する。宇宙船セントジョージは、<竜の卵>と名付けられたその星へ、探査に向かう。中性子星への飛行――それは、科学探査史上、未曾有の出来事であるはずだった。だが、表面重力670億G、地表温度8000度、しかも、直系20キロ足らずのパルサーに、知的生物が存在するとは、もちろん誰一人想像していなかった。
 彼らの原子核は、電子の代わりに中性子そのものを交換する。分子結合の代わりに、核結合を利用する。したがって、進化の速度は人類の100万倍にも達した。
 2050年5月22日、軌道上に姿を現したセントジョージは、その生物、チーラたちに重要な影響を与えた。<竜の卵>を巡る衛星は、まさに神の存在を彼らに教える。原始の生活にあったチーラは、やがて社会を宗教を生み、文明を育むのだ。
 6月21日、人類の時間でわずか1ヶ月のあいだに、100万倍に進む文明は、遥かにその神々を凌駕し、やがてチーラは宇宙の真理を求めて飛び去っていく。
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 Robert L. Forwardは、重力理論を専門とする物理学者。本書は、その専門を遺憾なく発揮した傑作で、中性子星上に住む生物と、人類の出会いというアイデアが画期的だ。これは、『重力の使命』(ハル・クレメント)以来の、SF独特のアイデア(科学的な理論に基づいた舞台設定)を現代的に、最大限生かしたものといってよい。

(注:『世界のSF文学総解説』(自由国民社)は、SFの代表作を解説する目的で編纂されたものであるため、内容もレビューというより梗概紹介に近い。ワープロ以前の手書き原稿だったもの。この本は、84年以降も92年まで何度か改訂され、評者の原稿も載っているはずなのだが、印税方式ではなく原稿買切方式のため掲載誌を送ってこないので未確認【?印】のまま)