『世界のSF文学総解説』(1984/86?/90?/91?/92?)に収録
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虎が歩いていく。都市国家の当主である加賀見は、その虎の姿とともに、娘の聖夜を見た。聖夜は、彼の持つ写真を受け取ると、地上へと去る。写真は、<影盗み>を写し出していた。 詩人は、ギルドに所属しない放浪者だったが、<二重館>にら致され、そこで詩作に励むよう言い渡される。しかし、彼は、奇妙な話を聞く。それは、<たましいの顔>に関する噂だった…。 彫刻師善助は、鏡市で粘土を買おうとして自分が<影盗み>である事を知る。<影盗み>は、人間の 真の顔である、<たましいの顔>を見、彫り上げることができる。善助は、自分のたましいを彫ろうとする。けれど、その像は完成する前に盗み去られてしまう。――5年前、自身の顔を見た<帝王>=加賀見は、引退を強いられるほど、恐ろしい衝撃を受けた。 <影盗み>が現れたと知れるや、たちまち町にパニックが巻き起こった。折からの激しい雨で都市は冠水し、そのうえ、生命を得た像、ゴーレム狩りとも重なり合い、鏡市は混乱の内に崩壊していく…。 山尾悠子の 初めての長編である。独特の言語感覚が、良く現れた作品で、その世界の精緻さには、比類がない。本書以降、長編は、まだ他に書かれていない。
(注:『世界のSF文学総解説』(自由国民社)は、SFの代表作を解説する目的で編纂されたものであるため、内容もレビューというより梗概紹介に近い。ワープロ以前の手書き原稿だったもの。この本は、84年以降も92年まで何度か改訂され、評者の原稿も載っているはずなのだが、印税方式ではなく原稿買切方式のため掲載誌を送ってこないので未確認【?印】のまま) |