95/01/22

一ヶ月サボっているうちに、事態は急変する。

一月一五、一六日、生駒の信貴山荘で「宏納会」と呼ばれる催しに参加。要するに、かねてより高齢化が進んでいた某マニアSKさんの結婚パーティである。趣味はヤクザスーツ(花柄なんかがついているやつ。着る人によってはやおいスーツでもあるか)のコレクション。既報どおり二十才近くの年の差があって、二〇世紀最後から二番目の犯罪だとか言われていた例の事件です。

まあ、それはそれとして、

帰って寝ていた夜明け(一七日)に震災が発生した。

岡本家(震源より100キロ東の奈良・震度4)、きさらとエリーが落下。本が若干動くも落下せず。

ザッタ主宰者の寺さん(震源からやや南の尼崎・震度5)、本・CD数百冊相当散乱。

水鏡子(震源より20キロ西の加古川・震度5)、本千冊散乱。

古沢嘉通(震源からやや東の池田・震度6)、本は本棚ごと崩落、(スチール本箱が)折損。

大野万紀(ほぼ震源上の西宮・震度6)、家具壊滅。

翻訳家夫婦の佐脇・細見(ほぼ震源上の神戸市灘区・震度7)、家具壊滅、マンション壁面破損。壊滅したJR六甲道駅の近在。

ザッタ関係M(ほぼ震源上の芦屋・震度7)、住居(マンション)1階挫屈火災発生も、冷静にリュックに水とパンを詰めて脱出。

ゲーム関係プロデューサ安田均さん宅(ほぼ震源上の神戸市灘区・震度7)では、ゲームをやっている最中に停電、引き続いて本棚が次々に倒壊して来たという。

ではあったが、まあ人死にはなかった。米村秀雄先生(ほぼ震源上の神戸市灘区・震度7)は応答がなく、生存が危ぶまれたが、水鏡子先生の懸命の捜索で、実家にいたことがわかった。後、地震当日灘区のマンションにいたことが判明。日頃掃除をせず、ごみと段ボールなどが散乱していたので、かえって助かったのだと言う。

ほぼ震源上の東灘区在住S年F組N先生は無事、同じく東灘区在住星群のTさんは家が半壊し避難所生活、SK(宝塚)は予定通り(一八日に)新婚旅行(とゆーような人もいる)。その他、神戸地区の知り合いで死者はない模様。

もっとも、死亡確率でいうと、地域併せて二〇〇万分の五〇〇〇であって死屍累々ではない。当然住んでいた地域によって大差があるのである。しかし、本が多いと確率は確実に増す。

電話で聞く家屋の被害はすさまじく、筆者の実家がある須磨区(南部)では、瓦は(ほとんど)落ちる、壁は(大半)崩れる、塀は(相当)倒れる、電柱は(かなり)折れる、亀裂は(一面に)走る、マンションは(大きく)傾く(一階を駐車場にしているタイプ)で、このありさまだと、人口一〇倍の東京震災なら、死者五万人は軽いであろう(民間住宅の耐震度に大差があるとは思えない)。あぶないのは、高速道路や電車の高架だけではありません。気をつけましょう、関東の皆さん。

しかし、なぜか家齢七五年の実家は、瓦は落ちても二、三枚、壁は崩れても一部分、塀は倒れず、で生き残った。

ザッタでは、震災五日後の例会が正常どおり行なわれたという。神戸のありさまにかまけて、マスコミは全く注目していないが、大阪北部も損害を受けている。コンピュータやキャビネットが床に散乱するやらくらいだが、梅田の紀伊國屋はスプリンクラーが作動して、壊滅状態だという。本日現在、加古川の水鏡子と大阪は、神戸で分断されたまま。

95/01/30

ルポルタージュ・阪神大震災を歩く

二八日の朝から夜まで、実家の須磨まで神戸を横断した(往復十時間、大半は渋滞)。

地域はゾーンによって隔てられている。
見えない境界線を過ぎると、光景は一変する。何の変哲もない住宅街を幅三キロ、長さ二〇キロの帯で包みこんだようなゾーンが、確かに存在する。
ある一線を越えると何もない。当り前の市街地がある。再び境界をまたぐと、すべてが崩壊している。

神戸の中心街三宮から西寄りの神戸駅まではバスもなく、かつての繁華街を徒歩で横断する。

抜けるような青空がある。既に火災は治まっている。
ここでは、ビル中にゾーンがある。一部の階だけが押しつぶされたビルは、すぐ上の階も下の階も、ガラスさえ割れずに残っているのに、ただ一階だけが消滅している。その一階は、単なる駐車場であったり、商店であったり、事務所棟であったりする。それが、青空の中で、くっきりと浮かび上がっている。
ほとんど傾いた建物も、その瞬間を閉じこめて静止している。動くものはない。崩壊の物音も聞こえない。

カメラを抱えた観光客が多数歩いている。

声を聞くと、台湾人観光客のようである。いつか見た事のあるビデオの違和感が、そのまま神戸に移し変えられている。それは、平然と日光浴をしている女の子の彼方で、爆撃の煙が上がるレバノン内戦の光景だ。
異常と日常の混在、繁栄に潜む破滅の既視感。

長い渋滞とバスを待つ行列。

宵闇が迫る、三宮歓楽街の壊滅したビルの谷間。小規模ビルが林立するここは、爆撃直後の惨状をとどめている。道路側に傾斜し、倒壊寸前で死に絶えたビルの群れ。ウィンドウとネオンサインの残骸。

そして、ヘリコプタの爆音。

瓦礫が散乱する歩道、中国語でどなる観光客のフラッシュ。

目次へ戻る

次月を読む