97/8/13

西澤保彦『複製症候群』(講談社)
 SFの設定で、どこから見てもミステリを書いてしまうという作者の最新作。そういう人の例に漏れず、昔はSFファンで、今も意識的にSFを扱おうとしている。ちょっと前ならば、SFマニアの集中非難(この変節者め、てないいがかりですな)を浴びたところだが、今はむしろ当り前の状況なのでだれも驚かない。さて本書は、小松左京的壁に閉じ込められた高校生たちが、次々と殺されていくという密室殺人もの。犯人はクローンで殺されるのもクローン。設定としては実に輻輳としていながら、ミステリであるがゆえに分かりやすい。

大原まり子『戦争を演じた神々たち2』(アスペクト)
 この題名から連想されるような内容ではない、というのは前作(SF大賞受賞作)と同様。流刑惑星に流された元政治家でしかもロボット、その惑星に住むものには全て守護霊が宿るのだという(「カミの渡る星」)。その他、フーテンの寅さんから連想した「ラヴ・チャイルド」、エリスンの「少年と犬」からインスパイアされた「女と犬」、同じくプリンスからの連想「世界でいちばん美しい男」、美しい龍ロボットを駆る侵略者「シルフィード・ジュリア」。しかし、ほとんどの作品は読者の常識を拒絶する展開を見せ、人間や性別(男性性)を超越した独特の視点で終わる。
ブルース・スターリング『グローバルヘッド』(ジャストシステム)
 著者の短篇集。「われらが神経チェルノブイリ」など旧ソ連系の世界を舞台に描いた作品が目立つ。いまとなって見れば、単純で混乱したロシアより、謎の超大国ソ連は、はるかにSFパンク的発想を誘う国だった。主に80年代を中心とした作品集であるがゆえに、やや時代的なギャップを感じる。

ジェフ・ヌーン『花粉戦争』(早川書房)
 前作『ヴァート』もあまりSFを感じさせる内容ではなかったが、本書はますますその傾向が強まり、ドラッグの白日夢から、最後はメタフィクションに至る。まーそれにしても、ここで描かれる花粉入り乱れるマンチェスターや、鼻水だらけのありさま(ほとんどスカトロジイ)は、ヌーンならではの特異なパターンといえる。イメージに比べると、書き方が汚すぎるのが難点。



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