98/04/05

乾くるみ『Jの神話』(講談社)
 先月に引き続き、第4回メフィスト賞受賞作。これまで読んだ3作の中では、もっとも“まともな”ミステリに見える、というようなことは帯の惹句にも匂わせて書いてある。ミッション系全寮制の女子高校で、巻き起こる少女の自殺と急死、何気ない事件に見えたが、その背景には恐るべき秘密が隠されていた。事件を追うのは美人女探偵。途中まではシリーズ物になるのかと危惧される展開である。まーしかし、結末はSFホラーそのものであり、設定だけから考えると結構無理がある。ミステリファンは、昔ならば怒ったことだろう。とはいえ、読ませる内容で、物語的に成立している点を買うべきか。メフィスト5、6回と比べて、一般向けである。
jnoshinwa.jpg (4316 バイト)

98/04/12

kaze15.jpg (3776 バイト) 風の翼15号
 
ファンジンは、買ったりもらったりする機会が多かったので、感想の一つぐらい返すのは礼儀かも知れません。しかし、別に格好をつけるわけではないのですが、昔からファンジン、同人誌といったものの返事を書くのは苦手で、たいていはそのままです。というのも、これらと通常の出版物との評価基準は同じではない。善し悪しの判定に苦労するからです。意識下で、知り合いの作品を貶すのもナンだ、なんてためらいも出てきます。
 というわけで(?)、めずらしく風の翼15号を取り上げます。神戸の西秋生さんらが主催する小冊子。西さんについては、Nova Quaterlyへの寄稿をはじめ、評者の過去の日記でも何度か書かせてもらったことがあります。
 昭和30年代の小学校での忍者騒動、年始に集まる同窓生と幽霊、都会に住むOLと郷里への郷愁、震災で凍りついた時間と都市の幻影、スタジオに住み着いた主人公のお話…。
 風の翼は、むかしから実にスマアトな装丁で、中身もその雰囲気に見合う幻想小説集となっていました。もう数年出ていなかったせいもあって、懐かしさが先に立つようですね。

98/04/18

ニコラ・グリフィス『スロー・リバー』(早川書房)
 ネビュラ賞受賞作。環境ビジネスで大もうけした富豪の娘が誘拐される。脅迫はネットで世界に放送されるがなぜか身の代金は支払われず、娘は隙を見つけ犯人を殺して逃亡。殺人への呵責から身を隠し、下水処理施設で働き始める。そこで出会う裏社会のハッカーやら、現場監督との友情、そして施設に忍び寄る危機…。
 というような展開だが、ここに登場する主な人物はすべて女性である。主人公も友人も善玉黒幕取り混ぜて女性。といって特別それをテーマとしたわけではなく、社会の背景を暗示するだけであり、極めて割り切った描かれ方をしている。環境問題、幼児虐待といった当たり前のテーマだけではないのが目新しい。
slowriver.jpg (5319 バイト)

目次へ戻る

次月を読む