98/05/04
スティーヴン・キング 『デスペレーション』(新潮社) リチャード・バックマン『レギュレイターズ』(新潮社) 2冊同時刊行、登場人物は同じで舞台が異なる独立した2長編、その上作者もキングとその分身、といった点がまず興味を引く。 ネヴァダ州のとある鉱山で、忘れられた廃坑が蘇る。暴かれた“墓”には異世界の“憑き物”が住み着いており、小さな街は瞬く間に壊滅する。そこに、神の言葉を聞いた少年が導かれ、対決がはじまる…。 オハイオ州の郊外住宅地に、突如現れるアニメのヒーローたち。彼らはしかし住人を意味もなく虐殺していくばかりだ。その悪夢を現実化したのは“憑き物”の憑いた少年だった…。 各長編は、いかにもキング定番であり、表紙のイラストも悪趣味で結構。とはいえ、これら2作は有機的なつながりを持つわけではなく、お互いの関係は極めて未消化なまま終わる。同じ登場人物なのに、なぜ別々の性格に描かれたりする意味があるのか、根本的にわからないのが難。このような細工はキングには不向きなのかもしれない。 |
98/05/17
ラリイ・ニーヴン 『リングワールドの玉座』(早川書房) ずいぶん昔に、『リングワールドふたたび』という長編をレビューしたことがあり、いつのことかと調べてみると、1981年の7月に翻訳が出て、同年10月のSFAでレビューしている。「設定はSF屈指ながら、お話がそれに匹敵しない」旨、これは前作から16年後に描かれた本書でも同じである。 冒頭は、リングワールドに巣食うヴァンパイア一族の根城を襲撃する、異種族クルーの冒険譚(グリーンバーグ編『死の姉妹』(扶桑社)に収録)。後半は、ルイス・ウーがまたまた登場、パペッティア人〈至後者〉、クジン人〈侍者〉とともに、恐るべき戦士であるプロテクター同士の戦いに巻き込まれる…。 とはいえ、やはり生態系の全てが人類の亜種で形成されているという、家畜人ヤプー的世界(ヤプーの場合はあらゆる家畜が日本人)の魅力を上回れないのが残念。 |
98/05/24
ウィリアム・C・ディーツ『戦闘機甲兵団レギオン』(早川書房) ミリタリSFである。遠い(?)未来の地球帝国には、無敵の外人部隊レギオンが組織されていた。彼らは、死刑囚や事故で死んだ人々から選別されたサイボーグ軍団であり、生身の人間をはるかに凌ぐ戦闘力を保持している。そこに、人類皆殺しを唱えるフダサ人軍団が侵入する…。 「スターシップトゥルーパーズ」にはたぶん似ていない。その昔、「スターウォーズ」の亜流に「宇宙空母ギャラクティカ」なんてB級SFがあったが、それを思い出してしまう。映画の内容は、まー宇宙の「トップガン」であり、恐るべき脅威という割に間抜けな敵を叩き潰すお話だった。本書もほぼ同様。戦略SFとはいえず、最初から展開が読めるのはやむを得ぬ。出てくる異星人がほとんど人類と変わりがないというのも、致し方ないとして、読み手は何を楽しむか。こだわりなく読める点か。パーネルやブリンはちょっと臭いという人でも、この程度なら、すっきり読めるのでは。 |
98/05/31
ジャック・ダン&ガードナー・ドゾア編 『魔法の猫』(扶桑社) 2月に出た本。既訳の作品が多いので、ちょっと読むのをさぼっていましたが、改めて読むとさすがに読みでがあります。「跳躍者の時空」、「鼠と竜のゲーム」、「シュレディンガーの猫」など、著名な作品はもちろん、アンソロジイの雰囲気がよい。本書の場合、旧作寄せ集めとなるわけで編者の資質が明瞭にみえてきます。その昔、メリルの年刊SF傑作選を初めて目にしたときの新鮮さ、SFと周辺作とが微妙にからみあった独特のセンスを彷彿とさせます(現在入手可能なメリルの傑作選は『ベスト・オブ・ザ・ベスト』だけなので、SFに絞られており、微妙な味は感じられません)。やはり、アンソロジイは“テーマ”ではなく“センス”なのだと、再認識させられます。 |