人工知能学会30周年を契機に企画され、2016年11月に出た『人類とAIは共存できるのか?』の姉妹編ともなるショートショート集。学会誌2012年9月から2016年11月まで連載された、全24作家による27編を収録している。もともと「人工知能について書く」という以上の縛りはなく、本書における8つのテーマ分け(及び各章での技術解説)は学会側で行なったものである。学会誌に載った作品でもあり、学会として一般読者に対し最新研究を啓蒙する意味もあるのだろう。また、AI支援で書かれた1作「人狼知能能力測定テスト」を巻末に収めている。
対話システム:「即答ツール」若木未生/「発話機能」忍澤勉/「夜間飛行」宮内悠介 人と会話する人工知能・稲葉通将
自動運転:「AUTO」森深紅/「抜け穴」渡邊利道/「姉さん」森岡浩之 自動運転:認知と判断と操作の自動化・加藤真平
環境に在る知能:「愛の生活」林譲治/「お片づけロボット」「幻臭」 新井素子 「君の名は。」もしくは「逃げ恥」、それとも「僕の優秀な右手」:人とモノの関わり合いの二つの形・原田悦子
ゲームAI:「投了」林譲治/「シンギュラリティ」 山口優/「魂のキャッチボール」井上雅彦/「A氏の特別な1日」橋元淳一郎 ゲームAIの原動力としてのSFとその発展・伊藤毅志
神経科学:「ダウンサイジング」図子慧/「僕は初めて夢を見た」矢崎存美/「バックアップの取り方」江坂遊/「みんな俺であれ」田中啓文 脳のシミュレーション:コンピュータの中に人工脳を作る・小林亮太
人工知能と法律:「当業者を命ず」堀晃/「アズ・ユー・ライク・イット」山之口洋/「アンドロイドJK」高井信 AI・ロボットが引き起こす法的な問題・赤坂亮太
人工知能と哲学:「202X年のテスト」かんべむさし/「人工知能の心」橋元淳一郎/「ダッシュ」森下一仁/「あるゾンビ報告」樺山三英/「人工知能と哲学」久木田水生
人工知能と創作:「舟歌」高野史緒/「ペアチと太郎」三島浩司/「人工知能は闇の炎の幻を見るか」神坂一 どこからが創作?どこまでが創作?・佐藤理史 第4回星新一賞応募作
「人狼知能能力測定テスト」大上幽作 星新一賞への二回目の挑戦・佐藤理史
作家の切り口はさまざまで、ストレートに斬りこんだものもあれば、捻りが大きくどこが人工知能テーマなのか不明、というものもある。文字通り対話だけで書かれた宮内悠介、ひたすら自分の事情を話す新井素子、AIがゲームの勝敗と違うものを読み取る林譲治、増殖を重ねるサブブレインのてんまつ田中啓文、落語家ロボットとのめまいを催す会話かんべむさし、などが印象に残る。
人間型をしているか否か(声だけのものもある)に関わらず、AIは人と接するところに存在する。そのため、AI側に本当の知能がなくても、人間側が勝手に解釈してしまうことがある。論理的ではない、忌避・拒否感や愛情・親近感が産まれる。こういう側面は、本書で書かれている内容以上に、人の心の在り方、同時に対人的なAIの在り方を示唆しているようでとても面白い。
同じショートショートがらみでは、光文社文庫から『ショートショートの宝箱』が4月に出ている。田丸雅智の活躍などで再ブームとなったのか、以前よりショートショートを頻繁に見かけるようになった。本書では、Web光文社文庫で行われている公募型の企画「SSスタジアム」の作品から14編が選ばれている(現在はオープン公募、本書収録時はメンバー限定のコンペ形式だったようだ)。ただそれだけでは作品数も不足するため、『異形コレクション
ひとにぎりの異形』(2007)から8編、『同 物語のルミナリエ』(2011)から6編、『SF宝石2015』から2編、それぞれ実績ある作家の作品を再録している。これらを併せて、30作家30作品になる。ショートショートの場合、専門の新人賞を獲ってもなかなかプロデビューは難しい。本書には、過去にあった星新一ショートショート・コンテストの受賞者や、てのひら怪談などのホラー関係、江坂遊、高井信らの小説講座出身者など、多彩な出自の作家が寄稿している。プロ作家の作品は各自の個性を際立たせたものが目立つ(ユーモラスで怖い北野勇作、唄う詩のような西崎憲)が、SSスタジアム組は、むしろショートショートの定石を外さない手堅い作品(オチが明晰な海野久美、古典的なスタイルを捻った深田亨)が多い印象だ。