牧眞司『JUST IN SF』(本の雑誌社)
造本:真田幸治
著者が「WEB本の雑誌」に毎週連載している「今週はこれを読め!SF編」は2013年7月からスタートして、すでに3年近く続いている。本書はそこから2015年12月までの範囲で100冊を精選、さらに著者紹介や関連する本などを加筆した、最新SFレビュー集となっている。
夏が来た!と序文にあり、3年前からSF関係の書籍が毎月/毎週潤沢に出るようになった。『NOVA』や『年刊ベスト集成』などのアンソロジイ。酉島伝法、高山羽根子、宮内悠介ら、そこから派生するユニークな作品集。復活したハヤカワSFコンテストから生まれた諸作、イーガンやケン・リュウ、ピーター・ワッツ、プリースト、マクドナルド、さらにレムやウルフらの本格作品。文学周辺では、ヘヴィーなソローキンや、コルタサル、あるいはケリー・リンク、カレン・ラッセルらのライトな短篇群もある。読む本には事欠かない。
本書は、ここ2年間に出た比較的新しい本について、読みどころを紹介するという内容である。ただ、著者の姿勢は変わっている。あとがきに「自分が好きな本を浴びるだけ読んで
(中略)
楽しんでいるところへ、他の本読みが「おっ、何読んでるの?」とのぞきにくる、そんな書評が理想だ」とあり、読者と自身とを対等に置いているのだ。初心者用のガイド本ではなく、読書家向けに読むヒントを提供しているわけである。「SF編」の縛りがあるからSF作品が多いが、もちろんこの読書家は、ジャンルSFの読み手でなくてもかまわない。
著者が「どひゃーっ」とか「すげーっ」と思った内容を書いたとあるものの、本書の書かれ方自体に、それほどくだけた表現はない。読むべきポイントや作品のユニークさを的確に挙げ、本の魅力を分かりやすく真っ当にレビューしてくれている。
一応数字を記しておくと、早川書房や東京創元社などの専門出版社が占める割合は56%(冊)、目立つ河出書房新社、国書刊行会が17%だった。見方を変えて、短篇集+アンソロジイが47%と多く、コンテスト受賞作を含む本が10%を占めている。
ところで、本書では各作品をサブジャンルに分けて、アイコンで表現している。面白い試みだが、これにはちょっと無理があるのではないか。著者の言うように、SFとSF外の境界さえ曖昧になっている。ぼやけているものを小分けし、拡大率を上げても、さらに曖昧さが増してしまう。
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