創元SF短編賞の応募作を収録した、オリジナル・アンソロジーの第2弾。賞は今年で3回目を迎えるが、毎回600編前後の作品が殺到する高人気の公募小説賞である。この創元SF短編賞には賞金がない。受賞作が同社から毎年出る《年刊日本SF傑作選》に収録される、という以上の特典はない(傑作選のための企画であると、はっきり書いてある)。今の時点で、他にSFを謳う賞がないのも事実だが、インセンティブが名誉のみの賞とは思えない盛り上がりだ。
空木春宵(1984)「繭の見る夢」:醍醐天皇の時代、都には毛虫を偏愛する大納言の姫君がいた
わかつきひかる*「ニートな彼とキュートな彼女」:近未来、独身専用アパートに住む男と女の奇妙な出会い
オキシタケヒコ(1973)*「What We Want」:宇宙商人を出し抜こうと活動する大阪弁の女性船長
亘星恵風(1961)「プラナリアン」:不治の病に冒された大学生は、プラナリアに魅せられた過去を持つ
片瀬二郎(1967)*「花と少年」:頭のしこりから奇妙なものが伸びた少年と、人間を襲う空の天敵たち
志保龍彦(1986)「Kudanの瞳」:遺伝子工学を結集し“くだん”を作ろうとするプロジェクト
忍澤勉(1956)**「ものみな憩える」:30年ぶりに、祖母がかつて住んでいた駅に降り立った主人公
酉島伝法(1970)「洞の街」(書下ろし):垂直に伸びる深い洞の周囲に作られた、異形たちの街で起こる異変
*既に著作のある作家 **第7回日本SF評論賞など受賞歴あり(4/7訂正)
本来の受賞作、酉島伝法「皆勤の徒」は、既に昨年7月に出た2010年の年刊日本SF傑作選『結晶銀河』に収録されている。そのため、本書には同様の世界観で書かれた受賞第1作が入っている。巻頭の、グロテスクさと華麗さが相半ばする「繭を見る夢」が佳作入選作。その他、審査員特別賞として、超人ものの類型を意識的に外した「花と少年」が大森望賞、人工くだんに対する思慕と嫌悪を描く「Kudanの瞳」が日下三蔵賞、抒情的な大人のファンタジイ「ものみな憩える」が堀晃賞となっている。昨年よりやや多様性が狭まった印象もあるが、並みのアンソロジーに比べて、各作品のレベルに遜色は感じられない。
今回は、プロ作家や、受賞歴があったりフルタイムではないものの著作のある応募者が半分を占めた。また、亘星恵風のように、毎回応募する人もいて、このやり方は普通の新人賞なら敬遠されるケースだ(進歩がないと見られる)。手垢が付いていない、文字通りの新人を発掘するのが常識的だと思うのだが、この賞はそんなことに斟酌しない。選から漏れた増田俊也「土星人襲来」が『NOVA7』に掲載されるなど、出版社の境界を越えたクロスオーバーまである。それくらい、応募者にはSF賞に対するモチベーションがあり、選ぶ側にも利害を越えた機会均等を考慮する柔軟性があるといえる。
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