バクスターの壮大な未来史(400万年後まで)を俯瞰する、短編集の上巻(もともと1冊の本を2分冊にしたもの)。
副題のジーリー・クロニクル(年代記)とは、宇宙創生から終幕までを支配する、超越種族ジーリーと人類との関わりを意味する。
本書では12の短編が収められている。
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ヘリウムを血液にするカイパーベルトの生命(3672年)
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論理プールから漏出したメタ数学生命(3698年)
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冥王星の短い夏に目覚めるクモ(3825年)
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水星の影に蓄えられた水球に棲む生き物(3948年)
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1日が1年の生涯を生きる女性の秘密(3951年)
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異星人スクウィームの支配から脱出する人々(4874年)
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スクウィームの依頼で回収した、花の形のジーリー物体(4922年)
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ジーリーの遺産を巡る異星人との駆け引き(5024年)
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発見されたジーリーの遺産、重力制御装置の秘密(5066年)
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流体生命クワックスの依頼で赴いた、グレート・アトラクター(銀河の集合点)の正体(5406年)
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150億光年の彼方、宇宙創生の領域調査で見たものとは(5611年)
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銀色のボール状生命ゴーストが創り出した、プランク定数ゼロの実験宇宙(5653年)
ジーリーはもちろん、各種知性体や、異種の生命が大量に出てくる。最初に『天の筏』が翻訳されたのは1994年、以来2年1冊程度のペースで長編が出ているわけだが、本書のように未来史として総括すると特に目立って感じられる。著者のインタビュー記事では、人類がこの宇宙の唯一の生命ではないかという(ある種の)懸念が表明されている。人類至上主義や唯我論のように思えるけれど、これはむしろ生命の貴重さを強調した見方である。本書の至るところに姿を見せる多様な生命の存在は、その心情の裏返しかもしれない。
さて、本書で気になるのは、アイデアの類似性(ベースとなる科学は違っているが)である。たとえば、1と3、10と11などはもう少し構成を工夫すべきだろう。
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