ジョー・ヒル『怪奇日和』(ハーパーコリンズ・ジャパン)
Strange Weather,2017(白石朗、玉木亨、安野玲、高山真由美訳)
表紙イラスト:Photo
illustration and design by Alan Dingman、表紙写真:Marcin
Perkowski,armo.rs,Sabphoto,Digital Storm,tatui suwat,Barandash
Karandashich/Shutterstock.com、ブックデザイン:albireo
2008年に出た『20世紀の幽霊たち』(2005/2007)以来のジョー・ヒル作品集である。といっても、前作が17作を収めていたのに対し、本書は長編級の中編4編のみ、いかにも長編型の著者らしい作品集といえる。2013年から16年にかけて書かれたもの。
スナップショット:主人公はかつてベッビーシッターをしてくれた老女が彷徨しているところを助けるが、ポラロイドマンに気を付けろという謎の警告を受ける。こめられた銃弾:モールの警備員を務める男は妻子との接触を禁じられていた。だが、ある日モールでの銃撃事件に遭遇し英雄に祭り上げられる。雲島:親友の追悼を兼ねてスカイダイビングに挑戦した主人公は、一人奇怪な空中に浮かぶ雲の島に囚われてしまう。棘の雨:コロラド州デンヴァ―周辺に棘の雨が降る。それは文字通りの棘(とげ)、鋭い切っ先を持つ針のような雨で、何千人もの人々を容赦なく切り裂いた。
これらの作品は『ファイアマン』などの大長編を書き終えた合間に、寸暇を惜しんで書き上げられたものである。信じられないが、ジョー・ヒルは2000枚クラスの大長編であってもノートに手書きで執筆するらしい。ノートが余ると、その「余白」にこういう中編を書くという(著者あとがき)。まだ40代なのでデジタルデバイドではないだろう。タイプするのではなく文字を書くことで、創作のモチベーションを高める作家なのである。
「スナップショット」では記憶を抜き取ってしまうポラロイドカメラが登場する。一方「こめられた銃弾」は、2012年に起こった小学校での銃乱射事件を契機に書かれたもの。銃社会や絶え間のない大規模な山火事という、アメリカ社会の(簡単には根絶できない)病巣が、超自然現象抜きで描かれている。「雲島」は空中に浮かぶ正体不明の浮遊物に漂着するお話。「棘の雨」はある種の破滅ものなのだが、結晶化した棘が雷鳴と共に無数に降り注ぐという、恐ろしいありさまが描かれる。
物語の構成はそれぞれユニークだ。「スナップショット」は物語の決着がついたあとも、何章分かのエピソードが続く。「こめられた銃弾」の方はある程度結末が読めるのだが、そこに至る前に突然の終わりが来る。「雲島」がなぜ浮いているか(エイリアンの技術なのか)、「棘の雨」はどのように作られるのか(何ものかの陰謀か)、一応のつじつまを付けてはいるものの、SFで通常みられるロジックとは明らかに異なる不思議な雰囲気がある。
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