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DAICON5事務所設立当初

 大阪に詳しくない方にはピンとこないかもしれないが、大会事務局が置かれたのは大阪市西区の阿波座だった。大阪では大企業の本社、支社は、御堂筋本町に建てられている。しかし、そこから一筋西に入った四つ橋界隈にも、中小の会社ビルが多数並んでいる。青心社のあるのもこのあたりだ。阿波座はそこから地下鉄で一駅、という意味では、結構都心に近い立地だったのである。

 UNICON時代からいろいろ瑣末な仕事を引き受けてくれていたS君が、その住所を知らせてくれたのは確か9月になってからだった。さっそく事務局の住所は案内パンフレットにも刷り込まれ、配布されることになっていた。家賃や敷金も意外に安かったと記憶している。

 ところが、大会予約金からお金を持ち出したまま、何日たっても彼からは連絡がない。それどころか、予約したはずの事務所そのものが解約されているという。S君は消えうせてしまった。どんな事情があったのか、わずかな(といっても数十万円の)お金を持ち逃げしてしまったのである。1年間雑用をこなし、専門学校もほとんどサボっての活動家だったS君なのだが。

 SF大会は初期の予算を大会予約金に頼っている。これは前年度の大会や各種イベントで、参加予約金として希望者から募るものだ。参加費が確定しない段階では、まずこのような名目でお金を集めるのである。後には早期予約割引などで制度化されるが、SF大会に限らずこのようなシステムはよく取られる。どんなに将来が有望な事業でも、成功前にキャッシュは手に入らない。もちろん大会に融資をしてくれる金融機関はないので、額を問わず、初期のお金は貴重なのだ。大会を予約する人は、前年のSF大会参加者、しかも大会会場での受付が多い。これを逃すと、参加申し込みが始まる年末まで、資金繰りのめどが立たない。GATACONでの予備登録者は460名にも上った。結局、正式申し込み者がこの人数を超えるのは、翌年が明けてからのことになる。このお金の半分がなくなってしまったのである。

(左)新潟で開催された第24回日本SF大会GATACONの案内状

簡単なパンフレット(中):テーマが書かれているのみの1枚もの/ワープロで作られた1枚ものの予備登録用紙(右)

 SF大会をめぐるお金のトラブルはこれまでも何回かあった。表面化したことが少ない理由は、そもそも大きなお金を扱う機会が少なかったことによる。大会の多くは会計がずさんで、例えこのような危険があっても、防ぐ手立てに乏しい。赤字大会の原因も、管理不十分な会計処理に起因することが多いのである。

 再契約にかかる費用は予想より高かった。もともと、それなりの家賃が伴ったのだ。それでも、住所変更に要する時間や印刷の刷り直しにかかる手間が惜しい。結局、事務局は予定通り2LDKのマンションの一室に構えられることになった。建物は事務所ビルではなく、一般マンションの2階だった。家賃は実行委員が出し合うことになる。さらに不足する資金は、一般スタッフから参加費を徴収する方式で集めた。前途多難、UNICONの失敗もあって、あまり明るい雰囲気ではない。ただ、金銭面での管理は厳しく行われるようになった。良し悪しはあるものの、厳密に設定された予算枠内で運営するという、基本ができたのである。

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bullet SF大会をめぐるトラブルとして、これまででもっともこじれたものといえば、第35回大会コクラノミコン(1996)会計横領疑惑事件が有名だろう。HPは今では訴訟の経過報告が中心になっているため、そもそもの発端が分かりにくくなっているが、要するに経理責任者が、大会の資金400万余を私的に横領した、とされる事件である。
bullet コクラノミコンに関する訴訟HP、および訴状
 

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