《時間封鎖3部作》で人気を得た著者だが、3部作発表前の2000年に、主にアンソロジーに書き下ろした短編(6編)と、新作短編(3編)とを併せて編んだオムニバス作品集である。共通の舞台として、カナダのトロントにあるファインダーズ古書店を据えたところが特徴だ。
アブラハムの森*:20世紀の初め、心を病んだ姉と二人暮らしのユダヤ少年が古書店主から得たもの ペルセウス座流星群(1995):離婚した男は、望遠鏡を売る女と仲良くなり、その元恋人の富豪と知り合う 街のなかの街(1997):深夜の街中を彷徨う趣味を持つ主人公は、見知らぬ街の中の街を知る 観測者(1998):パロマ天文台が開設された時代、カナダ人の少女が叔父の恩師でもあるハッブルと親しくなる 薬剤の使用に関する約定書(1997):精神の病を薬物で治療中の男は、同じアパートの患者と知り合うが 寝室の窓から月を愛でるユリシーズ*:骨董趣味を持つ友人を訪れた男は、その妻とも微妙な関係にある プラトンの鏡(1999):いかがわしいトンデモ科学本を書く作家の元に、自著で書いた鏡が届けられる 無限による分割(1998):生きる目的を失った老境の主人公は、古本屋の店主から奇妙な本をもらう パール・ベイビー*:古本屋を譲られた女性は、真珠色をした人形のようなものを生み落す
*:本書のための書下し
古本屋の得体のしれない主人を狂言回しに、その人物とは深く関係しない、しかしスーパーナチュラルな事件(霊的な現象、UFOと異星人、予言する石、真実を映す鏡、人生を語る本、有機物か無機物か分からない人形)が起こる。この「無関係」というのが肝で、あくまでもこの現象は、各物語の主人公たちの行動に起因するのである。些事にかまける登場人物が、知らない間に不可解な事件に巻き込まれているという設定なのだ。しかし、その展開は日常生活と必ずしもシームレスにつながっていないので、しっくりこない作品もある。オルダス・ハクスリーや天文学者ハッブルまで登場させた「観測者」や、著名SF作家による未知の長編が出てくる「無限による分割」などは、もう少しディティールを読んでみたかった。
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