小林泰三『ウルトラマンF』(早川書房)
Cover Direction&Design:Tomoyuki Arima、Illustration:Masayuki Gotoh
SFマガジン2015年12月号から16年6月号まで4回連載されたものに、大幅な加筆修正が行われた作品である。円谷プロとのコラボ企画の第3弾にあたる。同じウルトラマンを題材にしたものとして、三島浩司『ウルトラマンデュアル』が今年1月に出ているが、同書はウルトラマンの大枠を生かしながらも、設定や怪獣名などは独自のものだった。いわば別世界のウルトラマンである。
それに対し『ウルトラマンF』は、登場人物(早田=ハヤタ、嵐=アラシ、井出=イデ、そして富士明子=フジ・アキコ)や怪獣の名前(ゴモラ、ブルトン、ゼットン、ケムール人、メフィラス星人)も含め、オリジナルの設定をできるだけ取り入れているのが特長だ。その範囲は、《ウルトラQ》から《平成ウルトラマン》までを含む非常に広範囲なものになっている。
《初代ウルトラマン》終了直後の時代、ウルトラマンは地球を去ったが、怪獣の脅威は収まることがなかった。科学特捜隊は、ウルトラマンの技術を応用したアーマーで対抗する。某国では人間の巨大化開発を進め、別の某国でも密かに兵器化を模索していた。しかし、強力な怪獣を倒すためには、不完全な兵器では力不足だ。かつて、メフィラス星人により巨大化した実績のある富士隊員の力が必要だった。
ウルトラマンに限らず、ヒーローものや怪獣ものを小説にすると、物語に矛盾があったり科学的といえない設定が出てきたりする。しかし、50周年を迎えるウルトラマンともなると歴史的な重みがある。安易な改変をしてしまうと、いらぬ批判を招くことになる。原典はあくまで変えず、別の理屈で説明/解釈するしかない。こういう「解釈改変」は、山本弘の《MM9》などでも見られ、特撮とハードSF両者に拘るマニアックな著者らしい手法といえる。
本書はそういう《ウルトラシリーズ》全体に対するオマージュ(細かな言及が無数にある)であると同時に、初代ウルトラマン唯一の女性隊員フジ・アキコ(桜井浩子)の物語となっている。コラボという背景がなければ、きわめて良くできた2次創作と言うしかない。さすがにウルトラマンを全く知らない人にはお勧めできないが、ライトなファンであっても楽しめる作品に昇華できている。
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