2012年第3回創元SF短編賞優秀賞のオキシタケヒコと、同じく2015年第6回受賞作家の宮澤伊織が、ともに2月20日に発売した実話系ホラー/SFである。実話系というのは、投稿者が語ったり作家や編集者が取材した「本当にあった話」のこと。真偽はさておき創作ではない(とされる)怪談であり、一般化すると都市伝説になるようだ。小説ではないので、怪異の原因が分からない/説明がつかないまま、オープンエンドとなったのものが多い。これらを素材にして2つの作品は作られている。
おそれミミズク:主人公は小学校時代に両親を亡くし、田舎で新聞販売所を営む叔母の家に預けられて育った。しかし彼には10年続く習慣がある。山奥の屋敷に住む少女の下に毎週通い、怖い話を聞かせるというものだ。その少女は、窓のない座敷牢の中に閉じ込められている。
裏世界ピクニック:この世界の裏側には別の世界があり、出入りができる隠されたゲートがある。主人公の女子大生は偶然紛れ込んだ異世界で、同年代の金髪美女と知り合い命を助けられる。その美女は異様な生物が跋扈するこの世界に詳しいが、行方不明となった大切な人の捜索が目的なのだという。
同じ実話系といっても、2作は構造的にも全く違う。オキシタケヒコは文字媒体の怪談本から始まり、孤独で自分の立ち位置の定まらない青年(22歳)が、怪談を媒介にして一人の少女と出会い、やがて自分の背後にある真相を明らかにするという、ある意味成長小説のような物語になっている。実話怪談の不気味で得体のしれないお話が、どんどん意味を持つものに変質していく過程が楽しめる。前半と後半で登場人物の性格も大きく変わる。オープンエンドで終わらせなかったのは、SF出身という出自もあるのだろう。
対する宮澤伊織は、ネット系実話(ネットロア)をベースにしている。cakesのインタビューで「異世界に行っちゃう系の怪談というのが、ここ10年くらいネット上で流行っているのを観察していたので、これで『ストーカー』をやれるんじゃないのかというのが最初の発想」とあり、標題となった『裏世界ピクニック』は『路傍のピクニック』(『ストーカー』はタルコフスキー映画化時の題名で、こちらが正式の原題)から採られたのだろう。加えて、同じ映画をテーマとしたウクライナ製PCゲームの影響も受けているとある。確かに、本書の中でのゾーンの描き方は、異生物によるトラップが張り巡らされたゲーム風だ。発端から世界に入り込み、これはゾーンなのだと早々に種明かしして、ネット系怪談の化け物をそこに現出させていく。女子大生と美女、オタク風科学者も女性、捜索する行方不明者も女性と、そういう百合風組み合わせで書かれている点が新しい。