先週は『NOVA 2019年春号』だったが、年をまたいだ今週は東京創元社版のSF雑誌風アンソロジイ『Genesis
一万年の午後』である。中身は創元SF新人賞作家5人+年刊傑作選収録作家2人+ゲスト選考委員1人(堀晃)と、オール創元関係作家を集めたもの。また雑誌スタイルにするためか、新旧2著者(加藤直之、吉田隆一)によるエッセイも収録されている。
久永実木彦「一万年の午後」人類が滅びたあと、ある惑星で探査を続けるロボットたちに変化があらわれる。高山羽根子「ビースト・ストランディング」怪獣をリフトするという奇妙な競技にチャレンジする少女。宮内悠介「ホテル・アースポート」宇宙エレベータの見える不景気なホテルで密室殺人事件が発生する。松永真琴「ブラッド・ナイト・ノワール」北方圏最大都市の隠れ酒場に、ある日王族の少女が逃げ込む。松崎有理「イヴの末裔たちの明日」AI化のあおりで失業した男は、奇妙な治験アルバイトに応募する。倉田タカシ「生首」生首が落ちてくるという迫真の幻想に囚われたわたし。宮澤伊織「草原のサンタ・ムエルテ」宇宙から飛来し人類を滅ぼす危険な存在となる憑依体、2番目の発生先は日本だった。堀晃「10月2日を過ぎても」その年に起こった大災害が、なぜか主人公の周辺には大きな被害を及ぼさない。
久永実木彦はトラディショナルな抒情SF、松永真琴や宮澤伊織は今風のファンタジイ/SFを指向している。高山羽根子はいかにも作者らしい奇想小説、松崎有理も得意の論理的なユーモアだ。対して、宮内悠介はミステリーズ新人賞の最終候補作を改稿した珍しい本格ミステリ、倉田タカシも冒頭から最後までイメージの自由連想で綴られる新スタイルだ。堀晃は、著者自身が経験した日常の事象と幻像とが、シームレスにつながり合うという不思議な作品。
『NOVA』とは、著者も作品の雰囲気もまったく被らないので、両方を読むと2倍面白い。宮内悠介や高山羽根子らが、芥川賞や直木賞などメジャーな文學賞の候補に続々選ばれるように、いまSFと純文学の違いがなくなりつつある。というか、文學系の新人賞よりもSFの新人賞の方が、奇想性の高い書き手にとってハードルが低く魅力があるのだろう(酉島伝法も同様の発言をしていた)。傾向として、ハヤカワより創元の新人賞の方が、新人に求める要件が緩やかなように感じられる。
それにしても創元がジェネシスだったとは(英語で「創元」の意味をそう説明していたらしい)。とすると、ハヤカワはイエスなのか(そうなのか?)。