三か月連続刊行の三分冊版『七人のイヴ』が、本書を持って完結した。これまでと違って、一挙に舞台は5000年先の未来に飛ぶ。
5000年後、人類は地球軌道上に広がる環に無数の居住域ハビタットを設け、新たな文明を築いていた。人口は30億を数え、7人のイヴを始祖に持つ遺伝子改変された人種として分かれ住んでいる。一方、荒れ果てた地球では1000年間試みられたテラリフォームにより、海や大気が蘇ってさまざまな生命が再生しつつあった。そんなある日、主人公たちは重大な使命を受けて、七人のイヴ(種族)の代表とともに、新たなる地上ニュー・アースに降り立つ。
テラフォーミング(地球化)を地球に施して「テラリフォーム」とする表現は面白い。方法は火星のテラフォーミングと似ているが、たしかに地球相手の方が短期間に効果がでるだろう。地球の環はハビタット・リングと呼ばれる巨大な生命圏になる。地上とハビタット・リングとはある種の宇宙エレベーターで結ばれている。このエレベータの地上側は固定されておらず、吊り下げられた重りのように動く岩塊=クレードルになっていた。
前作の結末でイヴだけが生き残った宇宙では、やがて遺伝子改変により男が生み出される(染色体の関係で、女から男は作れるがその逆はできない)。さらに活動に適した遺伝情報から、様々な能力を持つ新しい人種が生まれてくる。しかし、もともと対立していた祖先の影響を受けて、ハビタット内の人々には人種対立が生まれる。かれらは〈ブルー〉と〈レッド〉の2陣営に分かれ、お互いの影響力を5000年後の地上、ニュー・アースに広げようと抗争を続けている。
さて、出てくるハードウェアのスケールの点では、3分冊中本書が群を抜いている。直系84000キロに5000個のハビタットを含むリング、宇宙エレベータのワイアを結ぶ〈アイ〉(形が瞳孔に似ている)は、ニューヨークを丸ごと飲み込む規模がある。まさに宇宙都市そのものだ。ただ、そういう巨大なスケールを擁しながら、本書は「人類SF」のように文明全体を総括するのではなく、あくまでも個人の物語になっている。個人が行った決定、行動が未来に大きな結果を残すのである。この世界観は物語の設定にも反映されている。生き残った子孫は祖先の行動を反復学習し、5000年を経ても文明は蒙昧な原始的状態に墜ちない。結末に置かれた劇的な再会が、そういった個人の物語と強く結びついているのが印象的だ。