第21回日本ホラー小説大賞の大賞、佳作受賞作である。昨年は大賞受賞がなかったので2年ぶりとなる。佳作受賞者の岩崎裕明には、過去に複数の受賞歴、著作がある。また、当初から20年間選考委員を務めた荒俣宏、高橋克彦が退き、新たに綾辻行人が加わった新体制による最初の年でもある(他の委員は、貴志祐介と昨年から加わった宮部みゆきの計3名)。
死呪の島:伊豆諸島の東端にある須栄島は人口減少に悩む離島だった。主人公は島で代々続く当主の次男、体の弱い兄を措いて、網元である父の跡を継ぐとも言われている。島には古くからの歴史を持つ寺社もあり、周囲を守るように石柱が設けられていた。ある夏の日、島に旅客船が打ち上げられる。それは16年前にカリブ海で沈没したはずの船だった。船の到来を期に、島の中では奇怪な殺人事件や怪異が続けて起こるようになる。
牛家:主人公は特殊清掃業者として、普通の業者が扱わない家の清掃を職業にしていた。その家は典型的なゴミ屋敷で、庭や2階建ての家の隅々までゴミで埋没している。牛と見まがう住民の死を受けて、清掃に入った彼らは、家で起こる奇妙な現象に気がつく。いくらゴミの撤去しようとしても、すべてが元通りになってしまうのだ。
『死呪の島』はスタンダードなホラーの定石を踏んでいる。伝承のある島、厳しい戒律に縛られる巫女、廃寺に隠された古文書、吹き溜まりに流れ着く死者、不吉な予言、島を囲む結界、呪いの存在、人食い鮫の出没とあって、日本的な因縁話かと思うと、ちょっと意外な展開(特に結末の魔法バトル)に驚かされる。良し悪しを含め、この過剰さ、盛り沢山過ぎる(サービス精神でもある)ところが本書のポイントだろう。
2年前から日本ホラー小説大賞では短編賞が廃止され、150枚以上が条件となった。「牛屋」はその下限にあたる中編で、空間すらも歪むゴミ屋敷のありさまを、家の内部だけに焦点を合わせて描いている。こちらは受賞作とは一転、執拗にゴミ屋敷のグロテスクさを描いた点が印象的だ。綾辻行人による、ホラーというよりSF的という評言が腑に落ちる。
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