コードウェイナー・スミス『三惑星の探求』(早川書房) The Rediscovery of Man,1973 1993(伊藤典夫・酒井昭伸訳) Cover:岩郷重力+N.S
全3巻にまとめられたコードウェイナー・スミスの《人類補完機構全短篇》の最終巻。これまで原著か同人誌訳でしか読めなかった、キャッシャー・オニールものの中編とジュヌヴィーヴによるオリジナル短編が酒井昭伸訳で追加され、全短篇の翻訳がついに完結した。何しろ伝説的な著者なので、全貌が日本でも明らかになったことには、大きな意義があるだろう。
宝石の惑星(1963/1993)*:表面至る所が宝石だらけの惑星は、生物が住むには過酷な環境だった。そこに一頭の生身の馬がいた
嵐の惑星(1965/初)*:一歩ドームの外に出れば嵐が吹きすさぶ惑星、オニールは司政官から1人の少女を殺すよう命令される
砂の惑星(1965/初)*:ついにオニールは追放された故郷の星に帰還、仇敵と戦う。そして、未踏の第13ナイル河を目指す巡礼の旅に出る
三人、約束の星へ(1965/1998)*:オニールの後の時代、3人の異形の改造人間が人類の脅威となった星へと赴く
太陽なき海に沈む(1975/初):スミスの死後、夫人ジュヌヴィーヴがオリジナルで書いた新作。人が乗れる猫が登場する
第81Q戦争(オリジナル版)(1928)**:スミスが十代に書いた最初の作品(改稿版は第1巻に収録)、空中戦艦による戦闘で勝利するのは誰か
西洋科学はすばらしい(1958)**:ロシアと中国の軍人たちが、中国の山中で1人の宇宙人と遭遇する
ナンシー(1959)**:孤独な深宇宙探査をやり遂げるため、飛行士の頭脳には非常用の装置が埋め込まれた
達磨大師の横笛(1959)**:古代中国で達磨大師が作らせた笛は、現代によみがえりさまざまな人の手に渡っていく
アンガーヘルム(1959)**:ソ連の衛星がとらえた信号には、何者かの名前を呼ぶ謎のフレーズが隠されていた
親友たち(1963)**:病院に収容された宇宙船の船長の話には、どこか矛盾があるようだったが
*キャッシャー・オニール、**『第81Q戦争』(1997)で既訳、***(原著発表年/翻訳発表年)
《キャッシャー・オニール》は《人類補完機構》とは別のシリーズであり、著者の病床で書かれたものだ(1966年に没)。これらは、当時必ずしも高評価ではなかった。だが、本書で改めて読むと、絶頂期の作品群とそう変わらない印象を受ける。いかにもスミス的な美的センスに彩られた惑星世界(無機質な宝石と有機物との対照、嵐の中に棲む異形の鯱や人、砂の星にあるナイル河)や、キャラの立った魅力的な登場人物(夫人と同名の美少女や、出自が亀の下級民ながら絶大な力を持つ少女)が目を惹くからだ。
1巻目のレビューでも書いたが、スミスの作品は一般的な小説として出来が必ずしも良くない。それは70年代に書かれたジュヌヴィーヴの「太陽なき海に沈む」を読むとよく分かる。こちらの方が登場人物の心理に深みがあり、より小説らしいからだ。しかし、スミスの人気はそういう部分にはない。読者の想像力をかきたてる独特のタームと、驚きを感じさせる残酷で非人間的な設定、素直で分かりやすい主人公たちにある。
本書には、シリーズ外の短篇も収められている。「西洋科学はすばらしい」などは、SFやファンタジイではよくある、悪魔/宇宙人と人間とのコミカルな絡みを描く(カットナーらが書きそうな)作品なのだが、スミスはそこに国際政治ネタを交えて、ちょっと皮肉な雰囲気に仕上げている。古典的なアイデアストーリーに、一味の違いを生み出すところが作品を古びさせない魅力といえるだろう。
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