フレドリック・ブラウン『フレドリック・ブラウンSF短編全集1 星ねずみ』(東京創元社)
From These Ashes: The Complete Short SF of Fredric Brown,2001(安原知見訳)
Cover Illustration:丹地陽子、Cover Design:岩郷重力+W.I
創元推理文庫SFマーク(現在の創元SF文庫)の第1弾が『未来世界から来た男』(原著1961/翻訳1963)だった。それ以前でも、サスペンス扱いで『スポンサーから一言』(1958/61)などがあったので、日本ではSF翻訳小説の黎明期からよく知られていた作家といえる。《エド・ハンター》ものなどミステリ長編も多数訳されたが、シェクリイと並ぶしゃれた短編小説の名手、ショートショートのお手本として人気が高かった。
しかし、1960年代半ばに執筆活動を休止し72年65歳で亡くなると、アメリカでは急速に忘れられていった。日本でも、死後半世紀を経て大半の著作、特に短編集は(『さあ、気ちがいになりなさい』など)一部を除けば新刊入手できない状態だ。本書は、アメリカの老舗ファングループNESFA(ニュー・イングランドSF協会)による短編全集を底本としている。いわばファン出版なのだが、研究書や歴史的価値のある作家の選集を出す定評ある出版社でもある。
最後の決戦(1941)*1:人類の運命を左右する事件は、意外にも地方都市のショーでおこる。いまだ終末にあらず(1941)*2:異星人は地球人類の危険性を見極めようとしていた。エタオイン・シュルドゥル(1942)*1:ある最新の自動鍛造植字機が、思いがけない動作をするようになる。星ねずみ(1942)*3:博士の打ちあげたロケットには、実験用に小さなネズミが乗せられていた。最後の恐竜(1942)*2:滅びゆく恐竜の時代、残された最後のティラノサウルスの運命。新入り(1942)*4:神々に操られた男は、犯罪の衝動を抑えるために葛藤する。天使ミミズ(1943)*1:結婚を控えた男が、ありえない事件の連続で精神を病む。帽子の手品(1943)*1:手品を強要された男のみせたものとは。ギーゼンスタック一家(1943)*2:娘はプレゼントに人形の一家を得るのだが、以来奇妙なできごとが重なる。白昼の悪夢(1943)*3:カリストで殺人が発生、警部補は目撃者の証言がまったく食い違うことに気が付く。パラドックスと恐竜(1943)
*5:講義中に一人の学生がタイムマシンと称する空間に迷い込む。イヤリングの神(1944)*6:ガニメデを調査した探検隊は、原住民のイヤリングのような装飾品に注目するが。
*1『天使と宇宙船』*2『未来世界から来た男』*3『宇宙をぼくの手の上に/わが手の宇宙』*4既訳あり単行本未収録
*5『SFカーニバル』*6『スポンサーから一言』
全集はもともと1冊で、全部で111編が執筆順に並べられている。翻訳版は全4巻の分冊となり、本書には12作を収録する。数が少ないのは、比較的長いもの(中編3作「星ねずみ」「天使ミミズ」「白昼の悪夢」)が含まれるためだ。その一方、20枚足らずのショートショートもある。既訳作品が大半だが、すべて新訳である。
ブラウンは作家になる前、自動鍛造植字機(ライノタイプ)のオペレータをしていた。活字を1文字づつ人手で拾うのではなく、機械が1行分(ライノの意味)を自動的に鍛造するのだ。この機械は、活版印刷を行う印刷所にならまだ残っている。本書の中では、それらが超自然的な力を持つようになる。少し前までのコンピュータ、今ならAIに相当する存在だろう。ブラウンは言葉を紡ぎだす=人の運命を決めるものと考えて、さまざまなアイデアに応用した。
本書の作品を、評者は主に中学生の頃読んだ。「天使ミミズ(ミミズ天使)」は、こんな謎解きがありなのか!と、とても吃驚したものだ。いま改めて読み返すと、細かい中身はともかく(意外な)オチの大半は憶えている。それだけ印象が強かったのだろう。既に古びたものもあるものの、原点はすべてここにあるのだ。
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