checklist
1979年〜1992年の出版状況

出版状況


 SFチェックリストは1979年から92年までの13年間を網羅している。これはSFブームと呼ばれる時期と、SF冬の時代と呼ばれる時期を共に含んでいる。上のグラフは、その間のSF出版を数値で示したものだ。縦軸は出版点数を意味する。翻訳(新刊)とあるが、国内も含めてグラフには新刊のみを上げている。国内ものでは、初期の時代に、新刊と同数の復刊、文庫化が行われていた。

 ここで、国内(LN)とあるのは、ライトノベルの文庫を中心とした流れ、国内(LN外)とあるのは、それ以外の創作すべてを含む。LNは統計が83年以降しかないが、それ以前からあった。ただし、この分野の出版点数は500点あまりに膨れ上がるなど、完全な1ジャンルを形成するに至っている。このままカウントする意味がなくなったため、よほどSFに関係深いもの以外含めなくなった。同じような分野として、かつてのシミュレーションノベルが含まれる。確かに国内SFに分類される作品の裾野を広げてきたのはこういった分野だったが、独自の読者層を持つようになって以降は、SFとしてカウントされることが少なくなった。

 例えば、チェックリストが終了した翌年1993年の国内と2006年の内訳を見てみると、4倍程度の大きな出版点数の違いが、ライトノベルと戦記(シミュレーションノベル)・伝奇小説のカウントの違いであることが分かる。1993年の段階では、ライトノベルの中身を詳細に分類せず、概ねファンタジイであるため、すべてSFの1類型としていたものを、2006年ではSF/ファンタジイ作品に限定してカウントしている。また、シミュレーションノベルは2006年ではカウント外になっている。新書で多用された伝奇小説という分類はなくなった(ライトノベルやファンタジイの1部でカウント)。


1993年と2006年と状況比較

 純粋に“SF”だけを見れば、1993年と2006年の13年で大きな差がない。チェックリストの時代である1979年と92年においても同様だった。これは、もっとも消費される(読者が多い)SF周辺分野が、各種テーマに放散していった結果であると考えられる。商業的に継続できるかどうかは別問題として、当初SF周辺という曖昧な領域だったものが、80年代に伝奇ノベルとなりスピンアウト、90年代にはシミュレーションノベルとなって独立する。2000年代より後は、ライトノベルという新しいジャンルを形成する。SFの“コア”は、実は不変のものというより、さまざまなジャンルを構成する普遍性の源=種であったことが分かる。

 尚、これらの数字はSF年鑑、SFチェックリスト、SFマガジン等を参考にしている。最近のデータは、「SFが読みたい!」等の星敬氏の集計を基にしている。

(2007/8/16改定)

Reviewer

1979年から81年(SF宝石の時代)
1981年(SFアドベンチャーの時代1)

 SFの出版点数が2年で2倍に膨れ上がり、本格的なブームと称された時期である。その一方、1981年には「SF宝石」廃刊、「奇想天外」休刊といった変化が生じた。チェックリストは、そのような出版の状況で、SFとしてのパースペクティブ(見通し)を明らかにする試みとして始まった。できる限りのSFを網羅することから、全体像を把握しようとしたのである。

 1980年から始まったSF大賞には『吉里吉里人』が選ばれるなど、SFの放散が始まっている。チェックリストは「SF宝石」から、「SFアドベンチャー」へと引き継がれながら、13年間にわたり継続されることになる。

1982年から86年(SFアドベンチャーの時代2)
 過去の再刊を含めて、従来のSFを再刊するという枠内では出版点数が保てなくなり、新規分野を模索した時代である。『スターウォーズ』等のSF映画ブームが去ると、一時的に出版点数は伸び悩むが、83年を底に回復。以後伝奇ノベルブーム等を経て、急激に伸びていった。サイバーパンクを巻き起こす『ニューロマンサー』が登場するのは1986年である。

1986年から87年(SFアドベンチャーの時代3)
 現在の水準から見ても、この時期の作品はほぼ完成されていた。サイバーパンクも広く受け入れられ、SFがそれ自体話題を呼んだ最後の時代だったのかもしれない。月平均の書評点数は20冊を越え、まさに世のバブルを反映するかのような様相を見せる。チェックリスト欄ではレビュアーを増強し、当初の網羅的視点を維持しようとした。最盛期は10名余で分担したが、結果的には焦点が定めきれない状況に陥っていったのである。

 ヴィジュアル系雑誌の(旧)「スターログ」が1987年2月号を最後に廃刊(現在の新「スターログ」よりファニッシュな雑誌だった)、一世を風靡した「サンリオ文庫」は、同じく87年に廃刊。販売不振という大義名分はあったが、世間は不動産バブルに沸いており、赤字部門を(税金対策としてタダで)切り捨てるには好都合な時代でもあった。

1988年から92年(SFアドベンチャーの時代4)

 チェックリスト終末の時代。ここから最初期の理想を捨て、代わりに選別・厳選の方向に転換が進んだ。フィクサー伊藤典夫が抜けたことも、変化の一因だろう。長老・鏡明、中堅・野村/大野/岡本と、データを取りまとめる星のコンビで、書評点数が減る一方、各レビューの内容は充実した。メンバーが減った反面、統一の取れたレビュー欄として安定感が高まったのである。出版点数はライトノベルの興隆などで逆に膨らんでいるのだから、従来のSF枠では、出版を把握しきれない状況が、明瞭に顕われた時代ともいえるだろう。

 1993年を最後にSF専門誌は「SFマガジン」のみとなる。この間1988〜90年の第3次「奇想天外」(大陸書房版)、1989年から92年の「小説ハヤカワHI!」などが消長した(ちなみにこの雑誌は「SFマガジン」の号数にカウントされる)。

(2006/8/16改定)

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