「人生の30代は9月」なのだという(紫門ふみ)。そーすると、10月は人生の40代なのだろうか。
 さて、これからしばらく読書日記を付ける。レビューではないので、印象のみを書きます。まるで志村の本棚だ。でも感想の一つも書きとめておかないと、忘れてしまう(書きとめておいても、忘れるものは忘れるが)。老いが進んでおるからじゃ(既に9月は記憶にない)。

イラスト:いのまたむつみ

9月はじめごろ
 菅浩江『鷺姫−京の闇舞』(朝日ソノラマ)を読む。話題の京都荒廃が横糸。京都の中心街はいたるところ、地上げの虫くいが生じている。住む人もいなくなりつつある。無人のオフィス街と同じ現象で、通勤観光都市と化しつつある。最近、KBS京都(イトマン関連で、放送機器が差押えられた京都のU局)に出演した菅先生を録画(10月8日放送)した。『鷺姫−』で京都を舞台にしたことから、ローカルニュース番組がインタビューをしている。代々菅家は京都に住み、菅原公を先祖に持つ由緒正しい家柄であるそうだ。でも、京都にはそういう人が多いのです。

9月中ごろ
 ルディ・ラッカー『空洞地球』(早川書房)を読む。ラッカーの中では一番の出来。その他おおぜいの19世紀小説の中でも、有数の出来ではないか。19世紀→ポオ→地底世界→特異点という、この作者にしかできない組み合わせが優れている。

9月16日
 『よむ』(岩波書店)の書評特集を読む。散漫なデータの羅列。こういうものなら、テキストファイルでほしい(最近はこればっかり)。

9月20日
 フィリップ・K・ディック『ニックとグリマング』(筑摩書房)を読む(→Checklist

9月30日
 筒井康隆『幾たびもDAIARY』(中央公論社)を読む。3年も前の日記なので、ずいぶん昔のように思える。はじめて会ったころ、幼稚園児だった筒井家の長男がもはや大学生か(それ以来顔を見ていないのだ)。そーいえば、安田家も中学生だな。


 9月末で、購入書籍(専門書は含まず)の累計が弐百弐拾参冊。読書家の基準からすると、少ないほうかも知れない(中身が問題か)。いったい何を弐百冊も買ってきたのかと、疑問に感じる今日このごろである。

10月3日
 鳴海章『ナイト・ダンサー』(講談社)を読む(→Checklist)。

10月7日
 笠井潔『ノヴァ、ノヴァ』(徳間書店)を読む。仕掛けは面白いが種明かしはつまらないという、典型的なパターンにはまっている。だが、やはり仕掛けを楽しむ本だろう。設定の暗喩を解読するというような、読み方はつまらない。

10月10日
 雨。ジョー・ホールドマン『ヘミングウェイごっこ』(福武書店)を読む。意外な趣味の本である。と同時に、ホールドマンの、ベトナム後遺症がまだ消えていないことがわかる作品(と、いいきれない一面があるけれど)。快調で一気に読めてしまう。

 その他、ようやくイリヤ・プリゴジン『混沌からの秩序』(みすず書房)を買う。読みきるのは、だいぶ後になりそう。koeiのパソコン(?)雑誌『電楽』は、SF(関係者)雑誌のようである。大森望も見開き2ページで登場。栗本薫のどアップがこわい。作家の写真なんて遠景で十分だと思うが。

 ところで、12月にパソコン/ワープロ直結可能なデータ・ディスクマンが出る。5万円を切る価格。検索、ファイル化、画像+音声再生が可能(世界標準規格)。ソフトはだいたい6000〜9000円なので、内容次第ではお買い徳。ブックページのCD−ROMを望む(最近はこればっかり)。

10月某日
 ティム・パワーズ『幻影の航海』(早川書房)を読む。
 力作であることは認めるが、あいかわらず、ごちゃごちゃした印象を受ける。以前は訳文のせいかと思っていたけれど、どうも、物語の組み立て方に原因があるようだ。一つの内容を、緊密に関連づけて盛り上げるのではなく、かなり羅列的に描いている。少なくとも、通勤電車の中でこまぎれに読むには適さない。
 小野不由美『魔性の子』(新潮社)を読む(→Checklist)。
 ピアズ・アンソニー『キルリアンの戦士』(早川書房)を読む(→Checklist)。
 同じく、
 何冊かのノンフィクションを読む。仕事の本とは関係ない。そのうちの1冊は、19世紀のヨーロッパの本。統一前のドイツ(30いくつかの国家に別れていた)は、主権国家連邦だった。これが今のソ連の新連邦とそっくり。うまくいくはずがないのは、歴史が証明している。

11月初旬
 キャサリン・ネヴィル『8』(文藝春秋)を読む。
 パリコミューンに揺れるヨーロッパ、タレーラン、エカテリーナ、ナポレオン、ロベスピエールなどが入り乱れて登場。ヨーロッパ版帝都物語といえるかなと思ったが、この結末はひどい。読んだ価値がなくなる。

11月9、10日京都SFフェスティバル91にて

bullet♀小野不由美の講演を聞く。異世界構築の手本のような創作作法。名のある作家の舞台創造は、たいていこういった手順を踏む(と思う)。その場合でも資料を積上げるか、頭だけで創造するかという2種類がある。前者が小野不由美で、後者が山尾悠子だった。
bullet♂伊藤、高橋先生の講演を聞く。日本SFは早川が作ったわけではない、時代の状況がそうなっていた。元々社は青心社だった。矢野徹は、無数の(14種類?)ペンネームを持っていた。いわれてみれば当然だが、常識の盲点。
bullet♂伊藤先生水鏡子を叱る 今も厳しい読み手(再読家)の伊藤さんを再認識する。水鏡子『乱れ殺法SF控』(青心社)は、示唆に富んだネタ本であり、トリックスター本であるという。
bullet♂僭越ながら、岡本家から水鏡子先生に一言。次のために書くことを残す、というのは正しい姿勢ではありません。すべてを書き切ることで、ようやく書くべきことが出てくるのではないでしょうか(書き切れば、その過程で次に書くべきことが生まれてくる。出てこないのなら、所詮その程度の内容なのです)。小出しにするほど、人生は長くない(もはや!)。たとえば、ファミコンやってて、心臓発作で死ぬかもしれないのです、明日くらいに。
bullet♀クイズでは、強力な神戸大学OB(老人は除く)や、伊藤チームを撃破し、小浜章子が逆転勝利した。アメリカン・ドリームは実在する。
bullet♂古本ギャンブルに狂う参加者多数。岸場君、来年もやろう。出展協力します。

11月京フェス後
 スティーヴン・キング『IT』(文藝春秋)を読んでいる。でも、まだ半分。これも通勤読書には適さない。重い。内容については、あえて感想を書くまでもなかろう。

11月某日
 今年のSF大賞は梶尾真治『サラマンダー殲滅』(朝日ソノラマ)と、特別賞・石原藤夫『SF図書解説目録』(SF資料研究会)(12月5日にパーティがある)。昨年の内容を考えれば妥当ともいえる。SFAに載った、石原先生の授賞挨拶はあいかわらず。

11月25日
 南山鳥27氏版『風の翼』へ、5年ぶりに寄稿する。深夜の原稿依頼があったもの。こわいでしょう。だれが同人かもよくわからないので、書く内容に困る。結局しょーもない原稿しか書けない。

11月26日
 荒俣宏のファンタスティック・ダズン(リブロ・ポート)が完結。当初期待したほど、印刷がきれいではなかった。値段が値段だけにやむを得ない。中では、『エジプト大遺跡』がよい。

12月16日
スティーヴン・キング『IT』(文藝春秋)読了。キングのベストではあるけれど、なんか、あれを思い出しますね「鷹の羽根」を。分量も7分の1で十分といえば十分、しかしこれでも後半は走りすぎか。個人的恨みも、かなりよくわかりますね。主人公をいじめた連中は、みんな精神異常か怪物かというこの描き方は、まさに私怨そのもの。

12月15日前後
 3年ぶりにシステム周辺を大幅に強化した。
 まず、従来2メガだった拡張メモリを4メガに増設。これはプロテクトメモリに設定したが、EMSとしてしか使っていない。CPUが286では、ウィンドゥズには不適格だからである。EMSは、FEPやエディタなどでももちろん有効だが、主な用途はキャッシュメモリ(約2.5メガを割り当て)である。キャッシュというのは、基本的にRAMディスクと同じようなものだが、わざわざファイルのコピーをしなくてもいいところが異なる。1度使ったファイルはメモリに保存されており、ハードディスクへのアクセス時間が短縮できる。三萬九百円也。
 さらに、SCSI/120メガのHDを増設。SASI/40メガと併用して計160メガとなった。ノートン・ユーティリテイに、PCのパフォーマンスを計るツールがあるので、測ってみると以下のようになる。(ちなみに、日本語版ではPC98VX41を1とした相対性能。英語版はPCATが基準である)。
 SASIの性能3.39
 SCSIの性能7.24
 キャッシュメモリの性能8.08
 つまり、VX41の内蔵ディスクに対して、3〜8倍早いということである。キャッシュメモリが高速なのは当然としても、SCSIが意外に健闘している。こんなに早いのなら、別にキャッシュなんかいらなかった。機種は日本テクサのSTATION120L。日経バイトのベンチマークで上位にランクされた機種。八萬四千円也。

12月18日
 狩野あざみ『亜州黄龍伝奇』(徳間書店)を読む。野村芳夫(SFA)と基本的に同じ感想。とはいえ、アクションものの典型的なパターンにはまっている。タフガイの大男、白皙の青年実業家、跳ねかえりの美少女、たよりない大学生(じつは強い)。悪役も共産中国牒報機関。香港ご当地小説だね。意外性に乏しく、処女長篇にしてはやや力不足か。

12月24日
 風の翼9号を受け取る。公約どおりに出た。

12月26日
 ジョン・E・スティス『レッドシフト・ランデヴー』(早川書房)を読む。評判どおりの凡作。解説も、これのどこがハードSFなのだという調子で白けてるし、こまったものだ。

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