一部では、(早くも)2002年度最大の話題作と評判の大作。とはいえ、ネットでもそれほど大きく取り上げられておらず、大部過ぎて読むのをためらう人も多いのだろう。
イスラム暦1213年(西暦1798年)、ナポレオンのエジプト侵攻を待つ、オスマントルコ庇護下マムルーク朝末期のカイロ。
アラビアンナイトという言葉どおり、ここで語られるのは、語り部が夜毎に紡ぎだす3つの物語である。ナポレオン襲来で、崩壊の危機に怯えるカイロの閣僚は、部下に請われるまま、読むものを破滅させる物語を、口承から文字に記録させている。その物語とは――
異教の蛇神に惹かれて魔道士となる醜い王子、生まれ育った森から捨てられる白子の少年、王家の血筋を引きながら詐欺師の一団で育てられた美少年、彼らはやがて、砂漠に眠る魔界のウィザードリイ的地下都市で1000年の時を経て出会い、運命の戦いに導かれ…。
――処女作以来、作者が得意とする架空の歴史、史実、記録の世界を、アラビアンナイト(この場合エジプト)に敷衍した内容といえる(架空の翻訳書というスタイル)。本作の大半は、物語の中の物語である上記3つ(で1つ)のファンタジイに費やされている。物語構造は、実は1重ではない。語られる物語の中で編まれた、また別の書物が、お話の最後で重要な意味を持つようになる。
文章は硬くなく、しかし執拗ではある。飛ばし読みには不向き。とはいえ、帯にある1980枚というのは嘘なので、長さに怯えることはない。23字×21行×2段×647頁では、1560枚にしかならないのである(といっても短くはないが)。まあ、原作の空白ページを省いたとあるので、そこを数えれば400枚あるのかも。
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