『煙突の上にハイヒール』(2009)に続く時期に書かれた、「小説宝石」掲載作をまとめた作品集である。ちょうど年1作づつ書かれたことになる。今回はミステリを意図した作品が多い。
「星風よ、淀みに吹け」(2009/12):月基地を想定した閉鎖実験施設で、クルーの殺人事件が発生する
「くばり神の紀」(2010/12):妾の子だった女子高生が、臨終の席で聞いた父親の気前の良い遺言の意味とは
「トネイロ会の非殺人事件」(2011/8):巧みな恐喝で苦しめられた被害者たちが、たどり着いた殺人計画の顛末
月を目指すエリート志願者たちの中で、さらに抜きんでた才能を持つ女性隊員が殺される「星風…」。なぜこれまで放置されてきた自分に遺産が、と訝る主人公は、その原因を探るうちに祖先に溯る秘密を知る「くばり神…」。烏合の被害者たちが集まり、どうやって殺人計画を成功に導くか、しかしその中で1人だけ加担しなかった者(非殺人者)がいる「トネイロ会…」。どれも理に落ちるSFミステリ風のお話である。何らかの科学/技術的なアイデアに基づくというのが、いかにも著者らしい。ところで、気になるのは「トネイロ」の意味だろう。これは、表題をローマ字表記してみればすぐ判る。ミステリファンでなくても知っている、あの有名な小説をもとにしているわけだ。
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