東雅夫には『怪獣文学大全』『恐竜文学大全』(1998)などの編著があり、同年に出たぶんか社のムック「ホラーウェイヴ01」(雑誌形式で2号のみ刊行)でも怪獣がテーマになっていた。中身はともかく、売れ行きは芳しくなかったようで、(そのダメージが大きかったのか)本書は15年ぶりの怪獣アンソロジイとなる。
黒史郎「怪獣地獄」:(カラー口絵)地獄に落ちた亡者たちが辿る恐るべき変貌
松村進吉「さなぎのゆめ」:(カラー口絵)少女が予言する、人々が蛾に変態する夢
菊地秀行「怪獣都市」:人気の衰えた往年の女優が訪れた、地方の都市で見たものとは
牧野修「穢い國から」:灰が積もる街で、人生を転落した男が見る悪夢の真相
佐野史郎「ナミ」:山陰の地方局でレポータをする主人公が出会う、ナミと称する女の正体
佐野史郎・赤坂憲雄「大怪獣対談 Part.1」:「ゴジラ」など怪獣映画と民俗学の関係を語る
黒木あるじ「みちのく怪獣探訪録」:東北出身の怪獣映画関係者に対する論考
山田正紀「松井清衛門、推参つかまつる」:代官所の使命を受け、伊豆で生ける死者たちと戦う二人の男
雀野日名子「中古獣カラゴラン」:地方都市が町おこしで作ったフィギュアはプレミアを付けるが
小島水青「火戸町上空の決戦」:引き籠りの従兄が描き続ける奇怪な天気図の目的
吉村萬壱「別の存在」:不定形の巨大な怪物が人々を食い荒らしている、その知らせを聞いた夫婦の行動
夢枕獏・樋口真嗣「大怪獣対談 Part.2」:子供時代に見た原初の怪獣映画の印象と、今への影響を語る
東雅夫「怪獣文藝縁起」:本書の由来にも言及した詳細なあとがき
怪獣アンソロジイと言っても、収録作品はホラーに分類できる。実際、日本の怪獣ものは、怪談や神話世界をルーツに持つものが(ゴジラを筆頭に)大半を占め、本書のテイストも怪獣を素材にした怪奇譚といえるだろう。実際のところ、往年の特撮怪獣映画をそのまま小説にしても、何らかのオリジナリティを(いまさら)出すことは難しい。中では、牧野修の閉塞感、山田正紀のゾンビ譚、小島水青の登場人物、吉村萬壱のバイオレンスが、各作家の個性を感じさせて楽しめる。
また、本書の体裁は、昭和30年代の怪獣図鑑/画報を模している。ページごとに文字の色が違う等、正確に似せられている。当時の印刷はもっとチープで、ページの途中から文字の色が変わる(前のインクが混ざったまま印刷された)など、その怪しさがまた妖しさともなっていた。
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