著者の、紙版としては6年ぶりの長編(電子書籍では何作か出している)。NOVAコレクションの一環ながら、アンソロジイ収録作とは関係のない新作書下ろしとなる。評者は図子慧の良い読者とはいえないが、本書は既存作とは大きく雰囲気を変え、ハードボイルドなアクション小説となっているようだ。
暴風雨の中で、水没の危険にさらされる子供たちから物語は始まる。何年かの後、そこから逃れた少年は暗殺者となって再登場する。女性のような外観と驚くべき身体能力を持ち、しかし、善悪を判断する倫理観は持たない。厳重に隔離された地下室、情報を隠ぺいする多国籍企業、彼の出自にはどんな秘密が隠されているのか。
舞台は近未来の日本。社会には外国人移民が一定数入り込み、警察や会社など社会の一翼を担っている。ネット社会は現代の延長上にあり、暴力団もサイバー武装している。そこで変異したウィルスによる汚染事故が発生するが、大企業は財力で事件を封じ込めている。子供を実験台にして治癒を研究する母親、財団の理事長と天才ハッカーの息子、暴力団の幹部と麻薬漬けのサイバー部隊、そして主人公に惹かれる若い刑事などなど、多数の人物が主人公を取り巻いている。ロシアの血を引く主人公は、格闘技の動きですら蠱惑的で、男女を問わず悩殺される。表題通りのアンドロギュヌスなのだ。この人物には、どこかヴァンパイアを思わせる危険な魅力がある。全編800枚余、広がった伏線のまとめも良く、ちょうどバランスが取れた好編といえる。
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