「刀剣乱舞」「ガンパレード・マーチ」などのゲームデザイナー、アニメ/マンガ原作者、小説家など多彩な才能を持つ著者の最新SF三部作。2015年11月に第1部が、2016年4月に第2部、9月に第3部が出て完結した。ハヤカワ文庫JAではこれ以外にも3冊の著作があるが、本書は著者の経歴に関係する代表作となっている。
【第1部】まずセルフ・クラフト内のゲーム空間で物語は始まる。主人公はゲーム内で独自進化を遂げる生物の観察をしている。付き従うゲーム内キャラクタは、熊本弁を喋る従者だ。そこに謎の集団が現れ、生物の情報を盗み取ろうと暗躍する。
【第2部】セルフ・クラフトが生み出す生命は、リアル世界の日本が独占する重要な戦略資源となっている。その利権を巡って、日本と世界は暗闘を演じていた。駆け引きに明け暮れる首相は、老人となったかつての友たちの動向を知る。
【第3部】対立は誤解の果てに核戦争に発展、日本の大半は壊滅する。その中で、一人の情報技術者は生き残ったネット環境を探す。一方、セルフ・クラフト世界では、広大な地域が突然消滅するという謎の現象に襲われていた。
舞台は凡そ40年後の未来、首相をはじめ主な主人公は老人(といっても、現在20代後半の世代)。ゲーム世界の中で、若さを蘇らせることができる。他にも熊本弁を喋ったり主人に甘えるAIとか、知性を持つドラゴン、緑色の半妖など、RPGを思わせるものが多く登場する。著者の別の作品とのリンクも多いが、これは分からなくとも物語に影響はないだろう。
端的に書くと、多人数参加型のオンラインゲームMMORPGのゲーム内世界を描いた作品である。典型的な異世界ものだが、そのファンタジイ世界とリアルな現実世界が関係しあい、最後にはリアル世界を「凌駕」するところまでが描かれている。こういう逆転が、ゲームを主な仕事としてきた著者らしい。第3部のあとがきで、イーガン『順列都市』と比較しながら、自作で工夫した最新の知見について述べるなどしている。また、SF大会でいつまでも稚気が抜けない還暦世代の元気さを見て、本書の老人の活躍を書いたとあり、思わず笑ってしまう。