クリストファー・ゴールデン『遠隔機動歩兵 ティン・メン』(早川書房) Tin Men,2015(山田和子訳)
カバーイラスト:加藤直之、カバーデザイン:早川書房デザイン室
「ティン・メン」は複数形になっているが、『オズの魔法使い』に出てくるブリキの木こり=ティン・マン(ティン・ウッドマン)に準えた俗称だ(本書の中でも言及される)。しかし、ユーモラスなティン・マンとは異なり、彼らは恐ろしい戦闘兵器なのだ。
クリストファー・ゴールデンは1967年生まれの米国作家。ホラーやファンタジイ、コミックブック、ヤングアダルトや子供向けの本、脚本も手掛けるなど著作は100冊以上、ベストセラーもある。本書は、近未来を舞台にしたスリラー、ミリタリーSFである。著者自身はホラーのブラム・ストーカー賞を受賞したことがあるが、SFプロパーの作家ではない。
世界秩序が崩壊する中、アメリカは強大な軍事力を行使し安定を図ろうとする。その主力となるのが遠隔機動歩兵と呼ばれるリモート兵士たちだ。彼らは安全な基地の中から、戦場のロボット歩兵をコントロールし、敵を地上戦で制圧する。通常兵器の大半は、ロボット歩兵には通用しなかった。しかし、アメリカに対する反感は極限に高まり、無秩序を志向するアナーキストたちは、究極の兵器で同時攻撃をかけてきた。
リモコン兵士といっても、現在のドローン兵器とは違い、物語では完全没入型のインターフェースが用いられる。兵士の肉体は安全だが、感覚はロボットの中にある。これが、お話のポイントでもある。また、超ハイテク兵器を有するアメリカが、世界中から嫌悪されるという設定も、ポイントの一つになっている(つまり、回りがすべて敵)。
山田和子訳の変格ミリタリーSFなので読んでみた。無敵のロボットが主人公、波乱万丈でありながらも結末の見えたお話ではあるが、さすがにアメリカ万歳では済まない点は、現代ミリタリー小説らしいといえる。ただ、この結末はちょっと時代的に先祖返りか。
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